2005年08月23日

フランス人形


20050823bb004b0c.jpg※12 出会い
 慎ちゃんは私が話しかけるのを待ってるかのように、鍬を置いて突っ立っている。
 はにかんだような目は、まつ毛が長く憂いをたたえていた。アランドロンの目のようだと思った。口角をちょっとあげて笑っているようにも見えるが、半分泣いたような、寂しげな顔だった。頭は小学生が全部そうしているように丸坊主だが、剃りたてのせいもあって、やけに青白く、決して似合うとはいえない。

「こんにちは」なるべく自然を装って声をかけた。
「こんにちは」と予想以上に子供っぽいかわいい声だった。私を見るとニコッと笑い、ペコンと頭を下げた。
「よく働くね、きつくないね」と言う自分がうんとお姉さんのような気分だった。彼は、私とたった1つしか違わないと、とても思えないほど、小さくて痛々しかったのである。
「ううん、ぜんぜんきつくないよ」と、頭を横に振った。

「でも、百姓ってしたことあるの?」と聞くと、「ううん、今までは子守りが仕事だったから」と遠くを見つめて、唇を噛みしめた。

「…へえー、どこの子守りを?」
「博多…、今まで住んでいた所の子供」
「そう、子守りってそんなに大変だった?」
「…子供って言うこときかないでしょ?それに…」と、口ごもるので、それ以上聞いたらいけないような気がした私は、
「そう、百姓の方が楽ねえー、なら、よかったね」とそれとなく話しをそらした。

「うん、百姓するっていうのが条件でこっちに来たから、…でも、ほんとに、ちっともきついことはないよ」と明るく答えた。私も、ほんとうに慎ちゃんは、今の方が幸せなのかもしれない、とその時、フッと思った。

 私と慎ちゃんは「そう」「うん」と笑いながら頷き合っていた。しばらくの間だったが、何か悪いことをしているようできまり悪くなった私たちは、
「じゃあまたね、慎ちゃん、バイバイ」
「うん、バイバイ」
 慎ちゃんは、気になるのか、秀夫さんの方をいちべつして、また、鍬を振り上げてせっせと土を耕し始めた。

 慎ちゃんとやっと話すことが出来、私は1つの安堵感があった。そして、これから、どんどん仲良くなれるようで、妙にウキウキしたのである。※13へ

(写真は、退職する時、仲間に何が欲しいかと聞かれて、所望したフランス人形)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 10:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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