2005年08月29日

若月まり子さんのビスクドール


200508290902a1ca.jpg※15 出会い
 私は茫然として、しばらく道路端に立ちすくんだ。
 道路の向こう側は三崎さんちの畑で、その横は小高い丘に登る坂道になっている。彼がその道を登って行ったのなら、道路から見える範囲だった。

 畑に入ったことは間違いないことだった。でも姿が見えない。隅々まで探そうと、道路を横切り畑の側まで行き、おそるおそる中を覗うと、やはり人の気配がする。
「慎ちゃんだ」とホッとした瞬間、ヒソヒソと話し声が聞えてきた。不思議に思い、さらに、死角になっている、ちょっと奥まった所まで近付いて行った。
 するとそこに、土手を背に、頭を寄せ合ってしんみりと話し込んでいる、ミツエさんと慎ちゃんの姿があったのである。
 私は、あわてて身を退いた。でも、2人は気付くはずはなかった。それほど話に夢中だったのだ。そこには、まるで、誰も入り込ませないぞ、というオーラのようなものが放たれていた。
 ミツエさんは慎ちゃんの肩に手をかけ、顔を覗き込んで、肝胆を砕くように話している。慎ちゃんは「うんうん」と頷いている。その姿は恍惚としていた。その幸せそうな、半分泣いて半分笑った顔が、私の脳裏に焼きついた。
「慎ちゃんはお母さんの存在を知っているのだ」と思うと、日頃の彼の様子がよけい意地らしく感じられる。
 彼と話すことが出来ないのが、ちょっと寂しかったが、私は静かにその場を立ち去った。

 部屋に戻った私は、以前、父と母が話していたことを、改めて思い出していた。

「ミツエさんも辛いでしょうね、あんな小さい子を遊びもさせずに、働かせているのを見るのは、…だって他の子は手許で何の苦労もなく暮らしてるんだもの」
「守山さん、知っとられるんだろうか、知っとられたらイヤじゃないか、近くにあんな子がウロウロしているだけでも、…たまったもんじゃないよ」
「だから、ミツエさんも仕方ないと思うておられるんでしょう、まさか、引き取る訳いかんでしょうから」

 私は、ミツエさんは、間違いなく慎ちゃんを自分の子としてかわいいのだ、と確信し、子供ながらにとても気の毒だと思ったのである。※16へ

(写真は、退職時に友人2人から戴いた人形。かわいい顔が大好きである)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 09:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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