2005年09月15日

チャイナ人形


20050915c8507451.jpg※23 初恋
 部屋の中から、田畑にいる慎ちゃんの姿を見つけると、手を振ったり、それがどんなに遠い距離であっても、お互いの存在を確認すると、2人は長い間、じっと見つめ合っていた。自分でもその状態が恥かしく、落ち着かない時間だったが、胸が熱くなり、潤った気持になったのである。
 
 そんなある日の夕方、窓の外を見ていると、慎ちゃんが犬を連れて国道をこちらへ向かって歩いていた。
 私は、急に鼓動が激しくなった胸に手を当て、深呼吸をして、部屋を飛び出した。そしてこっそり裏口から外へ出ようとした。その時「もうご飯よ、今頃何処に行くの」と咎めるような母の声に一瞬戸惑った。フッと後ろめたさを感じたが、会いたい気持を抑えることは出来なかった。「ちょっと散歩」と言い捨てて、駆け出していた。
 
 当時は、国道といっても、子供が道路の真ん中に出て遊べるほど、車の往来は少なかった。行き交う車を見るのも遊びのうちだったので、母は、私が散歩と称して国道へ出て行くことには、あまり疑問を持たなかったのかもしれない。慎ちゃんと会うためなどとは、思っていなかっただろうから。
 
 慎ちゃんは、私が家から出て来るのが分かってたかのように、私の家の前の道と国道が交わる角で待っていた。私の顔を見るとほっとしたかのように、にっこり笑った。そして私から目を離すと、犬の背中を撫でながら
「真理ちゃん、今日からタローの散歩、俺の役目になったから」と、おもむろに言った。
 
「エッ、秀夫さんは?」と言うと、再び私を見て
「犬より、子供のめんどうをみてって松子さんに言われたんだ、ウフフ」と、可笑しそうに笑った。
「そうか」と、私も慎ちゃんの横にかがみこんで、タローの背中を撫でた。
「…で、今の時間だったら、気兼ねなく真理ちゃんに会えるよ」とちょっと緊張した声で、照れくさそうに言った。彼の胸の高鳴りが聞えるようだった。見かけはずいぶん大人になった慎ちゃんだが、憂いを湛えた瞳と、半分泣いたような半分笑ったような口元は小学生の時のままだった。

 私も「そう、よかった」と平静を装って答えたが、歯がガタガタふるえるのを止めることが出来なかった。
 あの、小ちゃくて、いつもおどおどしていた慎ちゃんと、こんな会話をしているのが、まるで夢のようだった。※24へ

(写真は、17〜18年前、中国旅行のお土産にと、友人からもらった人形)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 09:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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