2005年09月19日

キューピー人形(ピカピカの1年生)


20050919b905f21f.jpg※25 初恋
 夏休みに入るちょっと前で明日から私が修学旅行という日、私は砂山で慎ちゃんを待っていた。犬のタローがまず、私にすり寄ってきた。そのあと、慎ちゃんがスーっと私の側に座って、足を伸ばした。
「待った?」
「ううん、さっき」と、言いながら彼を見ると、いつもと違って高揚した様子で、とても明るい笑顔をしていた。
「何かあった?嬉しそう」
「うん、…俺、夜間高校に行くとよ」と、噛みしめるように言った。
「ばあちゃんが今年1年百姓をちゃんとすれば、来年から、夜間高校に行っていいって。俺、百姓しとっても、将来農業が継げるわけでもないし、それに、いつかはここを出て独り立ちせんといかんから。そのためには技術を身に付けたかとよ。それで俺、工業高校に行く。卒業したら働きながら大学にも進みたかと、工学部の2部に」と一気に言って、ほっとしたかのように私を見て、満足そうにニコッと笑った。

 私は、今までずっと聞きたくても聞けなかった彼の高校進学のことなので、ほんとうに良かったと思った。が、(ちょっと、待って。それ、大学は東京に行くということなの)と思い、一瞬(何だ、慎ちゃんの将来に真理子はいないんだ)と心の片隅にひっかかったのだ。
 でも、口では「よかったねー、それなら、これから受験勉強しなくちゃね」としか言えなかった。とりあえず高校からだからと思ったし、私の心の動揺は知られたくなかった。それに、先のことはあまり考えたくなかったのだ。
「うん、でも定時制だから、大丈夫だよ、そんなに難しくないと思うし、もちろん勉強はするよ」と、ほんとうに嬉しそうだった。

 報告が済むと慎ちゃんは、いつもの静かな表情に戻り、私に「あのさー」と話し掛けてきた。※26へ

(写真は、通販で買ったキューピー人形)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 00:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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