2005年09月21日

ラベンダードール


200509216763cbdb.jpg※26 初恋
「俺がどんなにしてこの世に生を受けたか、真理ちゃんが知ったらきっと仰天するよ!逃げ出すかもしれん」と、深い悲しみの眼差しで、私に吐き出すように言った。
 私は不思議だった。この部落の人で、慎ちゃんの生い立ちを知らない人はいないだろう。慎ちゃんは、私が知らないとでも思ってるのだろうか。私は何と言っていいか分からなかった。2人の間にしばらく沈黙が流れた。

「真理ちゃん、あのぉ…俺ねぇ」
「慎ちゃん、私、大体分かってる。いいよ、言わなくても」
「ホントォ?知ってるとぉ?」と驚いたように、私の顔を覗き込んだ。私は頷いた。
 ほんとうは、彼が、自分の出生をどんな風に表現するのか、聞いてみたかったのに、いざとなって、思わず、言葉をさえぎっていた。慎ちゃんにそんなことを言わせるに忍びないと、とっさに脳が判断したのだろうか。
 慎ちゃんは私の言葉にほっとしたのか、話題を変えた。

「俺、ここに来る前、施設にいたでしょうぉ。クリスチャンの孤児院だったとよ。だから、ずっと自分のこと、孤児だと思っとった。何で生まれてきたとやろか、死んだ方がよかって、いつも思っとった」と、たんたんと話を始めた。私は、伸ばしていた足を曲げ、フレヤースカートを足首まで覆った。そして膝小僧を抱きながら、彼の話に耳を傾けた。

「ばあちゃんが俺を引き取りに来てくれた時、ホントに嬉しかったんだぁ。俺に血の繋がったばあちゃんがいたんだから」
「あっ、そうだよねー」
「そうでしょうぉ、それに自分を生んでくれたお母さんがこの世に存在していたなんて、ショックだった。その時はホントに生きててよかったーって思ったんだあ」
「…お母さんとは、会ってるんでしょう?」
 頭の中を、畑の隅でミツエさんと恍惚として話をしていた慎ちゃんの姿がよぎったのだ。

「うん、…めったに会えんけど、でもね、この世にお母さんって呼べる人がいることだけでよかとよ」
「そうでしょうねー、お母さんも慎ちゃんに会えて喜ばれたと思うよぉ」慎ちゃんは小さく頷いたが、一瞬、目を曇らせた。でも、すぐ、肩をすぼめて私を見てニッコリ笑った。そして、気を取り直すように
「真理ちゃん!もう1つ俺、生きてて良かったって思うことがあると。何だと思う?」※27へ

(写真は、息子の友人に貰った人形)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 10:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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