2005年09月23日

ピエロの陶器人形


2005092301724a1f.jpg※27 初恋
 「さあー、松田名のまりちゃんのこと?」
 私のことかもしれないと、思わないではなかった。でも、慎ちゃんには、妹との絆の方が大事なのでは、と一瞬思ったのも事実だった。
「違うよ、…真理ちゃんと巡り合ったこと」と言って、分かってるくせにと言うように、私の目を覗き込んだ。 私は目をそらして「うん」と神妙に頷いた。
「俺ね、ここに住むようになって、真理ちゃんを初めて見た時があったんだぁ。真理ちゃんがお父さんと一緒に畑に来とったとよ。…すごく可愛いと思うた。朗らかで、いつもニコニコしてたでしょ。俺の周りにそんな人おらんから、何か、いいなあと思うたと。何か、心が和んだとよ。おじさんも親切でいい人だったし…」

「えぇー、もう、いいよ、そんなお世辞」
 小さい頃から私は、明るくて活発な子供とか、気が利いて利口な子供と、よく言われていたので、その手の言葉はすんなり受け入れられた。でも、可愛い子供とは、言われたことがなかった。"可愛い"と言った彼の1言に動揺した。嬉しかったのだ。が、それ以上に照れくさかったのである。
「ううん、違うと。俺、真理ちゃんとは住む世界が違うと思うとったし。いいとこのお嬢さんに見えたし。…仲良くなろうとか、思いもせんだったから」
「あんなボロ屋の貧乏お嬢さん?」
「ウフフ、でもホントにそう感じたとよ」
 と言いながら、慎ちゃんは感慨深そうに遠くの方を見つめた。

 とっくに、6時は超えているはずなのに、夏の夕方はまだ太陽が残っていた。カラスが1羽、目の前を通り過ぎて、向こうの山へ飛んでいった。いつの間にか慎ちゃんと私の間にうずくまっていたタローが、カラスに向かって、ワンワンと2声吼えた。そして、また何事もなかったように、うずくまった。私は「よしよし」と頭を撫でながら、曲げてた足を伸ばした。そして、手を後で組んで背を伸ばした。
 慎ちゃんは、いつも汚れた作業ズボンをはいている。あぐらをかいて座っているが、両手で持った両足首が白く夕映えに浮き上がった。
 慎ちゃんは私に話すというより、自分に言い聞かせるように、しゃべり続けた。※28へ

(写真は、息子の友人に貰った小さなピエロの人形)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
 
posted by hidamari at 12:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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