2005年10月03日

陶器のうさぎ


20051003eb4bfa14.jpg※32 初恋
お盆には長姉の京子も博多から帰ってきた。東京にいる妙子はお盆とはいえ、旅費がないのか、もったいないのか、帰ってこない。一人っ子状態の私は、気ままな生活にすっかり慣れてはいたが、休みの日に、時々京子が顔を見せるのが、嬉しくてたまらなかった。社会人の京子は、私の憧れの的だった。京子の、衿ぐりが開いたブラウスや、タイトスカート、ハイヒール、小さなハンドバッグ等が、物珍しく、こっそり、鏡の前で身に付けてみたりした。京子はそれを見て怒ることはなく、時々は譲ってくれたりした。
 
 慎ちゃんの身の回りもお盆は慌ただしそうだった。畑で姿を見かけることはなく、夕方親戚大勢で墓参りに行く姿をチラッと見たくらいだった。ミツエさんもまり子ちゃんも同行していた。慎ちゃんは今日は嬉しいだろうな、彼にとっては、肉親の愛が何より1番なんだろうなと、彼の嬉しそうな姿を垣間見てしみじみ思った。

 夏休みも後半になると、また私は学校へ行き、夕方帰宅する日々を送っていた。その日もバスから降りると、国道を家に向かってトボトボ歩いていた。両脇に広がる青々とした田んぼに、夕日があたり、所々が金色に輝いている。トンボの群れが、数字の8の字を横にした形を作りながら目の前を飛び交う。手を伸ばせば掴めそうに低空飛行をしているそのトンボに気をとられて、ふと気が付くと、国道をこちらに向かって駆けてくる慎ちゃんとタローが、私の視界に飛び込んできた。
 とっさに胸が高鳴った。…そっか、タローの散歩か、たまにコースを変えることもあるのだと思い、慎ちゃんと偶然会えることに、今度はジワッと喜びがこみ上げてきたのである。
 あっという間に、私たちは鉢合わせた。

「あら、今日は国道を散歩させると?」私は喜びを顔一杯に現し、にこやかに言った。
「まあね」と言いながら慎ちゃんは、息を整えながら私と肩を並べて逆戻りに歩き出した。
「あらいいよ、散歩続けても」
 すると、急に慎ちゃんは私を見つめて悲しそうな顔をした。
「真理ちゃん最近ちっとも砂山に来んけん。…俺、毎日真理ちゃんを待ってるんだよ。今日はもう我慢出来んかったけん、ずっと国道で待ってたと、姿を見つけたから迎にきたとよ」と、慎ちゃんはその端正な顔を曇らせ、小さな声でボソボソと言った。
 私は「えっ!」と目を丸くして慎ちゃんを見た。
「だって、タローの散歩は毎日してるわけでしょ」
「そうだけど、…でも俺、真理ちゃんと会うため散歩させてるんだから、…でももういい、こうして会えたから」
「…うん、ごめん」と言いながら、私はひどく申し訳なく、胸がキューンと痛んだ。「これから、なるだけ行くよ」「なるだけ?」「うん」「…」。
 
 気まずい空気を取り払おうと思った私は、
「あのね、この前の夜中に、私の部屋に変な男が忍び込んできたんだよ」と、摩訶不思議な夜の恐かった話をしてしまったのである。※33へ

(写真は、旅行土産といって頂いたかわいい小さな置物)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 10:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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