2005年10月05日

有田焼の壷


20051005c18eb891.jpg33 初恋
 話を聞いた慎ちゃんは、私が思った以上に動揺した。
「真理ちゃん、なんで今まで俺に教えてくれんと?」
「だって言ったでしょ!私別に何の危害も受けなかったって。それにもうその男、病院に戻ったって」
「そんなこと言うても俺心配でたまらん。これから毎晩見回る」
 私は、慎ちゃんに話したことを後悔した。父に、誰にもしゃべるな、と言われたことも気になった。話題の1つとして軽い気持で言ったのである。でもやはり、彼に聞いてもらいたいという甘えが、どこかにあったのかもしれない。なぜなら、心配してくれるのが、こそばゆい快感でもあったのだ。が、やはり迷惑だった。
「ごめんね、有難いけど、ホントそんなこと絶対止めて!ウチには父さんも母さんも守ってくれる人、いるんだよ」
「…俺、わからんように見回るから」
「何バカなこと。それにちゃんと戸締りもしてるんだから。大丈夫だから」
 慎ちゃんは半分泣いたような、いつもの悲しい顔をした。
 いつの間にか私の家に入る道の角に到達していた。
「ねえー、分かったよね。…じゃあ、バイバイ」
「…」
 慎ちゃんが唇をかんで私を見送っている姿を背に感じながら、私は小走りで家へ向かった。

 そのことはすっかり忘れていた2〜3日後の夜であった。
 道に面した長い家の造りである我が家は、階段の下の板の間が、下半分は壁で上半分が窓になっている。窓を開けると、道を通る人とは目と鼻の先の状態になる。
 私はその夜、食事を済ませ、いつものようにただ惰性で机の前に座っていた。すると、階下で母の話し声がした。窓越しで道行く人と挨拶程度のおしゃべりをしているのだと思った。だが、挨拶にしては長話なので誰だろうと思い、2階の窓から下を覗くと、窓から漏れた蛍光灯の明かりに、慎ちゃんの姿がくっきりと浮かび上がった。黒いスケスケのアロハシャツが、大人びて彼にはちっとも似合わなかったし、とても品が悪い物だった。私にはそう思えたのである。

 母と慎ちゃんの様子を見て私の頭の中が急展開した。彼は見回りをしているのだ、と悟ったのだ。
 慌てた私は「慎ちゃんこんばんわ、良い服着てるね、透けてるじゃない」と関係ない、しかも、思っている反対のことを口走っていた。
 慎ちゃんは私を見ると、嬉しそうにペコンと頭を下げて「こんばんわ」と小さな声で返した。
「真理子、慎ちゃんはお前のために見回りしているんだって。止めるように言っとるとよ」
「こないだ偶然会うた時、あの話、つい慎ちゃんにしゃべってしもうたもん。でも見回りなんかいらんて言ったのに」私は母に必死で言い訳をした。父の怒った顔が浮かんだ。慎ちゃんとのことを感ずかれないだろうか。でも父は、夜は食事が済むと直ぐ寝る人である。もう9時にはなるだろう。今の時刻に起きてくる様子はない。私は取り敢えずほっとした。

 私は2階から階段を下りて母の隣に立ち、慎ちゃんを見てニコッと笑い、目で合図した。慎ちゃんはフッと肩の力を抜いたようだった。母に見つかって緊張していたのだろう。
「慎ちゃん、ウロウロしているとあんたが疑われるよ、いいから早く帰りなさい」と母は穏やかな口調だったが、きっぱりと言った。それでもなかなか帰ろうとしない慎ちゃんを見て、私も内心、慎ちゃんって、強情な子供なんだと思ったのである。※34へ

(写真は、旅館の床の間に飾ってあったもの)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 11:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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