2005年10月07日

旅館の玄関に飾ってあった花と花瓶


20051007b3d6ae0e.jpg※34 初恋
 その年の12月、10日もすればお正月というある日、我が家に石臼と杵が運ばれた。父が今年は自分の家でお餅をつくというのだ。
 ウチでは、この家に移り住んでからずっと、川向こうにある父の実家で、その実家の餅つきに便乗させてもらっていた。母は前日から実家に出向き、実家の餅米2俵を洗い、下準備を手伝った。当日は私たち家族全員、朝5時に起きて実家に行く。父はつき手、母はこどりを余儀なくされる。私たち子供は、大人が丸めた餅を、縁側に敷いたムシロの上に並べるのが役割だった。私は、親戚のウチでの餅つきは、大勢で食べる昼食もおいしかったし、決してイヤではなかった。むしろ楽しかったが、母にしてみれば苦痛だったのだ。父はそれを常々気にしていたのだ。

「今年は餅をウチでつくぞ!2斗ぐらいあっという間だ」と父は臼を撫でながら、感慨深そうだ。
 女の子ばかりじゃ、ウチで餅もつけん、とこれまで度々父がこぼすのを、私は胸を痛めて聞いていた。
 「父さん、1人でつくの?大丈夫?」と、恐る恐る聞いてみた。
 「大丈夫だ、それに慎君が手伝ってくれる」と、父はいつになく嬉しそうだった。私は、なるほどと思うと同時になんとも言えぬ喜びがこみ上げてきた。でも、冷静を装った。
 「母さん、よかったね、ウチの分だけなら、そう疲れんもんね」
 「真理子も丸めるとを手伝わんばよ」と、やはりどことなく弾んでいる。
 「うん、もちろん、今まで丸めとうてもおばさんたちに下手だからダメって言われてたけん、なんか嬉しか」。
 私は餅つきの日が楽しみだった。慎ちゃんが我が家の中に入るのは、小学校の子供会以来のことだ。
 その日から、かまどつくり、セイロ、モロフタ洗いと忙しかった。父と母と私は、それぞれ思うところは違っても楽しい作業だったのである。※35へ

(写真は、温泉宿の玄関に飾ってあったもの)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 10:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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