2005年10月13日

りんご


20051013a8d575ec.jpg※37 初恋
 母は、その頃から私に「慎ちゃんにあまり優しくしない方がいいよ、慎ちゃんが誤解したら困るじゃないの」と、言うようになった。
 私は「分かっとる、別に優しくはしとらんよ」と、答え、なるだけ慎ちゃんの話題にならないようにした。父と母に私の心を指摘されるのは、私にとってはいたたまれないほど、きまりが悪いことだった。
 
 その年のお正月は、何ということもなく平和に通り過ぎていった。
 慎ちゃんに会うために砂山に行くことは、私の中で、なんとなくはばかられる様になった。
 その頃から、国道の交通量が徐々に増えていった。父は相変わらず、さすがに下駄履きは止めて靴に変えたものの、自転車で郵便局へ通勤している。
 3学期が始まったある日、私は、久しぶりに、学校から帰る私を待ち伏せしていた慎ちゃんと、家に入る道の曲り角で土手に背を持たれて話し込んでいた。まさにその時、父が帰ってきたのだ。
 話に気を取られていたこと、夕暮れ時で薄暗かったこと、車の往来が多かったことで、うかつにも、父の自転車に気が付かなかった。

 父が目の前の曲り角にさしかかり、自転車を降りた時だった。
 気が付いたのは、殆んど3人同時だった。
「あら、父さん!…お帰り!」
「オッ!びっくりした、こんな所で何しとる?」
「…こんばんわ」
「オッ、慎くんか!…イャこんばんわ」
 一瞬、気まずい空気が流れた。
 私は観念した。
「…じゃあねぇ、バイバイ」と私は、慎くんに軽く手を振って父の自転車の後について、一緒に帰るしかなかった。慎くんは照れくさそうに「失礼します」と父に向かってピョコンと頭を下げた。一瞬がっかりした、でも彼もやはり観念した目をしていた。そして腰の所で私に小さく手を振った。タローがあたりをグルグル廻っていた。
 父から何か言われるのではないかと、ずっとヒヤヒヤしていたが、父はその場でも、帰ってからも何も言わなかった。
 夕食時はいつになく皆無口だった。話題を見つけて何か喋らなければと、思えば思うほど話題が見出せない。気まずい空気が流れるだけだった。
 こんな日は、私はとても良い子になり、夕食の後片付けをし、お風呂もさっさと入り、早々に自分の部屋に引き上げたのだ。
 父母の間で、どこの時点で私の行動を話し合ったのか分からなかったが、きっと、困ったものだと思ったのだろう。その夜、2人は終始無口で暗い表情だったのである。※38へ

(写真は、お取りよせリンゴ。見ても美しく食べても美味しい。今からが季節である)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 10:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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