2005年10月21日

青銅の花瓶


20051021f8213713.jpg※41 藪椿
 昭和39年春、私は人生の節目を迎えた。
 花のOL1年生、晴れて社会人になったのである。
 会社には、今まで通り自宅からバスで通った。
 長姉の京子は早出、遅出がある職場だったので、とうてい通勤は無理だったが、私の場合、朝9時から夕方5時までという決った勤務時間帯なので、通勤が可能なのだ。父も母も就職先には満足しているし、今まで通りの生活が出来ることは、何より嬉しいはずである。私も両親を安心させたことが、肩の荷を降ろしたようにホッとしたことだった。

 生活が一変し、巡り会う人も一変した。
 総勢33人いる社員は、概ね男性で女性は私を含めて3人だけであった。ただ、アルバイトの若い女性が常に4〜5人いて華やかだった。幹部は本社採用のエリートで、独身男性も6人程いたが、全て本社採用だった。総合職などない時代なので女性社員は庶務的な仕事だった。必然的に地元採用で高校卒業でよかったのだ。
 外渉部の超エリートの独身男性は、仕事柄英会話も堪能で、一流私大出身、しかも、とてもハンサムときている。私にはその他の独身男性も全てステキに見えた。アルバイトの女性軍は、いつも、独身男性の話題でもちきりである。彼女たちは皆、私より年上で、お化粧も洗練されていて、私にとっては同じ女性として眩しい存在だった。
 でも、私は年齢が1番若いこともあり、クルクルとよく働いたので、すぐに社内のマスコット的存在になった。そして老若を問わず男性社員にもかわいがられ、夜の中州にもちょくちょく連れていってもらったのである。

 職場は、私が描いていた以上に、恵まれた環境で、夢のような毎日だった。
 毎日、良い意味での驚きと、緊張の連続だった。私はその頃、その気になれば、どんな男性とも付き合えると、本気で考えていた。私の未来はばら色に輝いている、と浮き立つ思いだったのである。

 慎ちゃんとは、相変わらず、早朝顔を合わす程度だった。会えば胸がキュンとはなるが、つい、職場のステキな男性と比べてしまう。すると急に、2人のことが子供ぽく思え、みすぼらしく、惨めに感じてしまうのだった。私のそんな変化を何も知らない慎ちゃんに、なぜかイライラしたが、慎ちゃんも、お化粧などして、だんだん垢抜けしていく私を不安に思っていたのかもしれない。※42へ

(写真は、父の形見の花瓶。父が永年勤続で頂いたもの)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 12:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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