2005年10月25日

梨とかぼちゃ


20051025e2ea66dc.jpg※43 藪椿
 母は新聞を読んでいた。
「父さんは?」と聞くと、母は「畑よ」と、新聞から目を離さずに答えた。
「私、ちょっと出てくる」
「何処に行くの?」
「ちょっと、そこらへん。父さんのとこも行ってみる」
「ふうーん」と母は、気のない返事をした。
 時計は午後4時を指している。
 私に後ろめたい気持があるのか、何でもない言動がやたらとドキドキした。何処に何しに行くの、としつこくと聞かれたら、何というべきか考えつかなかったのだ。
 だが、何ごともなく母の関所を通り抜けた。ちょっと早い時刻だったが、砂山に出かけるには今しかないと思った。
 
 母は幸いにも私をちゃんと見なかったが、私はその時、お気に入りのブルーのフレヤースカートに衿にレースのついた白いブラウス、それにベージュのカーディガンを羽織っていた。よそ行きではないけれど、いつものジャージ姿ではなかった。

 砂山には、やはりまだ慎ちゃんの姿はなかった。
 これまでは、いつも慎ちゃんが、先に来て待っていてくれた。
 家から、距離的にはそんなに遠くない砂山は、山の裏側に配しているため、近所の人に会うことはもちろんないが、まず人を見かけることがない。草原の先は崖になっていて、その先は、段々畑、田んぼと続いているのだが、そこは既に隣の松田部落であった。
 そのため、ここに来れば、いつでも、2人の世界になれるのだ。でも1人で静まりかえった草原にたたずむと妙に心細い。私は、不安にかられていた。
 
 気を紛らわそうと、藪椿のある林に行ってみた。枯れ木ばかりだった周りの木々が青々と蘇っていて、藪椿の木の存在さえ分からなかった。代わりに、山吹の黄色い花がたおやかに咲き乱れ、ねむの木がピンク色に染まっていた。白いソックスに編み上げの運動靴を履いていたが、林の中のひんやりとした地面の感覚が足裏を通して伝わってきた。

 ワンワンという泣き声と犬の走り回るざわめきが、周りの静寂を破った。
(タローだ!よかった、慎ちゃんが来てくれた)私は林を駆け出た。慎ちゃんがいつもの場所に座っていた。
「こんにちは!…よかった、慎ちゃんが来なかったらどうしようって思うとった」
「こんにちは!」
 慎ちゃんは長いまつ毛を伏せながら唇を噛みしめた。
「…何言うとっと、俺は日曜毎にここに来て、真理ちゃんを待っとるとに」※44へ

(写真は、新高梨とかぼちゃ。大きさのアンバランスがおもしろい。梨の糖度は当たり外れがある。甘くなかったら、サラダにするとよい)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 10:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック