2005年11月02日

市田ひろみオリジナル湯呑


200511028882965f.jpg※47 藪椿
 慎ちゃんからの手紙は、普通の白い封筒に入っていた。
 開けてみると、白い便箋3枚に、優しい感じの文字がびっしりと書かれていた。封筒には、証明書用の白黒の写真もちゃんと入っていた。
 詰襟に学生帽の、肩から上の慎ちゃんは、あの独特な笑ったような泣いたような憂いのある顔だった。その小さな写真に、私は吸い込まれていったのである。

 真理ちゃんへ、から始まる手紙の文章は、慎ちゃんの思いが詰まっていた。
 真理ちゃんの笑顔を見ると、僕は頑張って生きていけるとか、僕は今まだ学生の身なので、貴方に何もしてやれないけど、長い目でみて欲しい、これからもずっと日曜日には砂山で真理ちゃんを待っているからとか、今1番望んでいることは、いっときも早く大人になって自立すること、などという内容だった。
 1番私を喜ばせたのは、この間砂山で会った時の真理ちゃんはかわいかったよ、白いブラウスと青いスカートがよく似合っていたよ、と書いてあったことだった。私の姿をちゃんと見ていてくれたのも嬉しかった。偶然その服を着て写った写真を手紙に入れた、そのタイミングが、面はゆかったが、でも私の心が通じたようでやはり嬉しかったのである。

 彼の写真はすぐ、私の定期入れの中に、他人には分からないように大事に差し込んだ。
 ところが、手紙のしまい場所をどこにするか途方にくれた。
 私が留守の間、母が私の部屋へ掃除するために入り、偶然手紙を見つけて読まないという保証はないのだ。そうかといって、写真のように持ち歩く訳にはいかない。
 部屋の中をグルグル見回した。
 机、本棚、整理タンス、洋服タンスがあるだけの6畳の四角い部屋だ。適当な隠し場所がないのである。
 そこしかないと考えついたのが、唯一、布団を入れる半坪の押入れの天井裏だった。
 天井板を押し上げると、簡単に板が外れた。手紙の入った封筒をさらに頑丈な紙袋に入れ、その天井裏に仕舞った。

 私はその後、慎ちゃんからもらった手紙の束を、ある時期までずっとそこにしまっておいた。母には、きっと、見つかっていないはずである。

 2回目の慎ちゃんの手紙に(真理ちゃん、僕のことを、手紙の中で、慎君と君づけするのはやめて下さい。僕は真理ちゃんより1個年下だから、それだけでも情けないと常々思っているのに、君呼ばわりされると、ますます子供扱いされるようでイヤなのです。せめていつも呼んでいるように、ちゃんづけにして下さい)と書いてあった。
 それは私が、手紙の中で、慎くんと呼んだ方がシャレていると思い、軽い気持で書いたことだった。
 でも彼はやはり、年下ということにこだわっているのだろう。
 もちろん私はその後、手紙の中でも慎ちゃんと呼ぶように改めたのである。※48へ

(写真は、通常夫婦で使用している湯呑。大きさも1番適当である。夫婦ものに大小があるのは案外的を得ていないと思うのだが)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 10:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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