2005年11月06日

鶏頭ではなく毛糸のような、ケイトウの花


2005110663392dfe.jpg※49 藪椿
 昭和40年4月、私は19歳の春を迎えた。
 職場での私は、何の問題もなく毎日楽しく仕事に励んでいた。
 上司にも、だんだん信頼されるようになり、課長には、「わしがきっといい男を見つけてやるから、変な男にひっかからないようにな」と冗談なども言われた。
 ただ、かっこいい超エリートの川辺さんには、大学時代から付き合っている彼女が、東京にいることを知った。夢のようにではあったが、彼が憧れの存在だったので、一時的に落ち込んだこともあった。
 その気になれば、誰とでも付き合えると高をくくっていたが、いいなと思う人にはたいてい彼女がいた。度々声をかけてくれる人もいるが、その人は私がどうしても好きになれないのだ。やはり、恋愛は、そうそううまくいかないというのも分かってきたのである。

 それでも、社内で独身会というのがあり、山登り、小旅行、ボーリング大会、飲み会等が、ちょくちょく行われ、グループ交際では、楽しいことばかりだった。
 そしてもう1つ、私の楽しみとして加わったことは、この4月から、同じビルの中にある証券会社に勤める第一高校の同級生の花田信子さんと一緒に、習い事を始めたことである。
 私たちは、福岡市内の小さな個人経営の洋裁学校へ入学した。毎週木曜の午後6時から8時までの授業だった。

 花田さんは、華のある美しい人である。
 高校時代は、田舎者の私にとって博多ッ子の彼女は遠い存在だったが、同じビルの中で同級生ということで急に親しくなったのである。おおらかでくったくのない彼女は男性の注目の的であった。当然、彼女には既に、彼女と同じ証券会社内にステキな恋人がいた。
 花田さんは「昨日彼と映画観に行ったのよ」とか、「この時計、彼からのプレゼントよ」とか、何でも話した。そんな彼女と時々ショッピングしたり喫茶店に行ったりすることが、私には刺激になり、またとても楽しかった。
 男性から尽くされるだけの女性と思っていたが、洋裁も料理も上手でこまめに彼の世話もする女性の鏡のような人だった。私は見習うことばかりだったのだ。
 
 花田さんにも、私の彼が慎ちゃんだなんて、とても言えないことだった。
 映画を観にいきたいと思っても、慎ちゃんと一緒に行くには、私が2人分のお金を払わなければならないのだ。やはり自分が惨めで、そのことを他人に知られたくないのである。
 それに、学生服姿の慎ちゃんと一緒にいるのを、知人に見られたら恥かしいと思ってしまうのは、本当に慎ちゃんを好きだといえるのだろうか。私はだんだん暗い気持になっていった。
 
 でもそんな時も、いざ慎ちゃんに会って、彼の潤んだ瞳に見つめられると、暗い気持がどこかへ飛んで、メロメロになってしまう私だった。※50へ

(花の植え替えでケイトウを捨てておられたのをもらってきたもの。まるでえんじ色の毛糸のようだ)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 10:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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