2005年11月08日

喫茶店でお持ち帰りのコーヒーカップ


20051108aeb35c5a.jpg※50 藪椿
 木曜日の洋裁学校の日は、夜学から帰る慎ちゃんと、同じバスに乗ることが出来た。
 慎ちゃんは始発地点から乗ってくる。私は洋裁学校を終えて、近くの街中のバス停で乗った。
 花田さんも同じバス停で市内線のバスに乗って帰る。市内線は夜でも15分おきに運行しているが、私たちが乗る郊外線は40分おきだった。

 慎ちゃんは後から2番目の席に常に座っていた。本人は通路側に座り、窓際に学生カバンを置き、私の為に席を取っておいてくれるのだ。たいてい、お客さんが皆座れる状態だったので、気兼ねなく座ることが出来た。学生帽をやや深く被り、白い肌に、黒い学生服を身にまとった慎ちゃんは、私がバスに乗り込むと、上目使いの眼差しで「ここだよ」手招いてくれる。その時の彼は身震いするほど、かっこよかった。考えてみれば野良着姿ばかり見ていたので、学生服の慎ちゃんがとても新鮮に見えたのかもしれない。
 時には、バスが満員の時もある。
 そんな時は私の為に席を確保することは出来ない。でも、彼は窓際に座っているのに、わざわざ私に席を譲ってくれる。それは、立っている老人が周りにいたりすると、とても不自然なことだった。私は誰が見ても若かったし、窓際に座っている人がわざわざ譲ろうとするのだから、不思議がられ、目立ってしまうのである。
「いいよ。座ってて」と私がいくら言っても、慎ちゃんは頑として私を席に座らせた。
 私は恥かしくて、返ってイライラした。でも、それは慎ちゃんの、私に対する愛情の示し方だったのだろう。

 母は、私が洋裁を習うことは良いことだと、好意的だった。
 父は、若い女が夜遅く出歩くなんてとんでもないことだ、と批判的だった。
 「何時のバスだ、俺がバス停まで迎に行くから」
 「何時になるか分からん、電話する」
 慎ちゃんが一緒だから心配いらないよ、と最初から言うのはまずいと思った。
 偶然一緒になった、聞いたらいつもこの時間のバスというからちょうどいいでしょ、だから迎はいらない、と言おうと思った。父は元々夜に弱いので、きっと迎えを毎回することは困難だろう、返って慎ちゃんと一緒ならボディーガードになり安心だと思うのでは、と考えたからだ。
 父は「うーむ」と苦虫を噛んだような声を出しただけだった。

 日曜毎に、私が会社の若い人達のとのグループで、あちこち出かけることを知っている父と母は、私と慎ちゃんのことは、少しは気になるものの、恋人関係とは決して思ってなかったのである。51へ

(写真は、小樽の喫茶店で、お持ち帰りとしてもらったもの)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 09:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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