2005年11月12日

藍色の鬼百合柄絵の、コーヒーカップ


200511126499e267.jpg※52 旅立ち
 いつもの時間よりずいぶん遅くなっていた。
 さすがに、父も心配してひょっとしたら国道へ出てきているかもしれないと思った。
 現実に戻ると、今していた行動がひどく虚しく、空恐ろしくさえ思えてくる。
 「慎ちゃん、ここでしばらく様子を見ていてぇ。私があの道に入ってから帰ってよ。もし、父がいたら面倒だから」と言うと、慎ちゃんも「そうだね、ここで見てるから、気をつけて帰って」と、私のブレザーとセミフレヤースカートに付いたゴミを丹念に取り除き、不安そうに見送った。

 父は、案の定、国道に出る曲り角で仁王立ちして待っていた。
「父さん!ごめんなさい。電話しようと思ったとけど、もう寝てると思うたけん」
「いつものバスに乗り遅れて、次ので来たとよ。慎ちゃんとも一緒になれんやったけど、月の夜でぜーんぜん恐くなかったよ」
 と、たたみかけるようにベラベラ喋りまくった。
 父の顔をまともに見られなかった。油断すると魂の抜け殻のようにポーッとしてしまう自分の顔と、シャンとしようと思ってもどうしても力が入らない自分の身体の頼りなさを、絶対父に見られないように先になって歩いた。一刻も早く父の側を離れて自分の部屋にたどり着き1人になりたかった。
 父は、「何で乗り遅れたとか?」と、遅くなったことだけを問い詰めた。
「洋裁、切りのいいところまでって、ついつい長引いたとよ」と答えた。
 父の態度で、慎ちゃんと遊んでいたことは、ばれていないというのが分かった。水風呂がだんだん温まっていくように、ホッと胸を撫で下ろしたのである。

 バスに乗り遅れることは、実際にも、それからはしばしばあったのである。
 そんな時、慎ちゃんは私が乗るバス停で下車して、私を待っていた。でもこれが私にはとても切ないことでもあったのだ。
 私は花田さんといつも一緒だった。慎ちゃんは私の姿を見つけると、嬉しそうに近寄ってくる。私は花田さんに慎ちゃんのことを知られたくなかった。
 近づいてくる慎ちゃんの目を反らして知らないふりをした。
「本田さん!知り合いじゃないの?」
「ううん、人違いじゃないの?」と無視をしたのだ。
 慎ちゃんは、場を察知して、悲しそうな顔をして私の前を通り過ぎた。
 この時私の取ったとっさの行動が、慎ちゃんの心を傷つけたことは間違いなかった。
 花田さんがバスに乗った後、慎ちゃんにどんなに謝っても、気まずさはしばらく残った。
 でも、慎ちゃんは次からは、花田さんがバスに乗るまでは、ちゃんと見えないようにバス停の隅に隠れていてくれた。
 また、家の近所では、疑いを持たれるような行動はいっさい取らないように、2人は常に気を配ったのである。※53へ

(写真は、頂いたものだが、藍色が好きな私にぴったりだと思ったコーヒーカップ)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)


posted by hidamari at 12:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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