2005年11月20日

干し柿


2005112072b8149e.jpg※56 旅立ち
  映画に行く約束していた11月1日、職場に慎ちゃんから電話が入った。
 電話をとったのは渉外課の係長だった。
「真理ちゃーん、電話だよ!」と呼び出された時、慎ちゃんからだとは思わなかった。
「彼氏から」と受話器を渡しながら係長は私をからかった。電話を取り次ぐ時、いつもいう口癖だと思った。
 でも、電話は慎ちゃんからだった。
 電話の内容は、映画館の前で6時に会おう、という再確認のものだった。
 事務的なやりとりで電話が終わり、有難うございました、と言って受話器を返すと、係長は、「真理ちゃん、男は見かけじゃないよ、将来性が1番大事だよ、君の将来を託すんだから」と私の耳元でささやいた。
 何で、そんなこと言うの、係長は私たちのこと知ってるの?と思ったが、知ってるはずはなかった。一般論を言ってくれただけなのに、そのことばは、妙に私の胸にグサッと突き刺さったのである。

 私はその日、ベージュのセーターとカーディガンに自分で縫った深いグリーン色のタータンチェックのボックスプリーツスカートを着て、靴はローヒールを履いていた。学生服の慎ちゃんに合わせようと思ったのだ。
 セミロングの髪は少しパーマが残っていたが、耳の上でピンを留めただけだったし、意識して殆んど化粧らしい化粧もしていなかったので、女学生に見えなくもなかった。
 私が映画館に着いた時、既に慎ちゃんは到着していたが、いつものように私に気を使い柱の影にいた。
 私の姿を見てスーと横に立ち肩をたたいた。そして、学生1枚大人1枚のチケットを買った。
 代金を払おうとする私に、首を横に振り、いいからと言いながら、私を映画館の中へと促した。
 押し問答するのもみっともないと思った私は、じゃあ自分の分だけと無理に学生服のポケットにお金を入れた。慎ちゃんもそれ以上抵抗しなかった。
 中に入ると、慎ちゃんは直ぐ私の手を取り、後から2番目の席へ行き「ここでいい?」と言った。
 平日だったので席は半分くらい空いていたのに、私たちはバスと同じようにその後から2番目の席に座った。最後列には誰も座っていなかったし、回りにも誰もいなかった。
 慎ちゃんと、博多の街なかで会ったり映画を観たりすることを、私は、ずっとシミュレーションしていたことだった。今それが現実となっていた。いつもわだかまっている将来の不安は姿を消し、ただワクワクと胸が躍った。
 私たちは初めてデートらしいデートをしているのだ、としみじみ嬉しかった。※57へ

(写真は、干し柿。種もなく今年は甘い)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)

posted by hidamari at 11:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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