2005年11月26日

校庭の夕暮れ


2005112608095ad9.jpg※59 旅立ち
 映画“愛と死を見つめて”は不治の病の女性を支え続けた男性の純愛物語である。
 最後に亡くなってしまう吉永小百合は、可愛くて迫力があった。慎ちゃんも私も泣いた。私たちはずっと手をつないだままだった。映画に入り込んでいても、ふっと気が付くと隣に慎ちゃんがいるのだと思うと、何とも言えず安らいだ幸福感が湧き上がり、その度に手を強く握り合った。
 映画が終わると、館内が明るくなる前に私たちは足早に映画館を後にした。
「9時半のバスで帰らないと」と私が言うと、慎ちゃんは腕時計を見て、
「うん分かった、1時間まだあるよ」と言った。
「そうね、お腹すいたね」と言いながら、私はお昼にクリームパンとジャムパンを買ってバッグにしのばせているのを思い出した。
「公園でパン食べよう」
「うん、真理ちゃん気が付くんだね」
「遅くなると、レストランも締まっちゃうしね。そう思ったの」
 その日は新月だった。刃物のようにスリムなお月様だが、けっこうあたりはうっすらと明るい。11月に入ったとはいえ、ちっとも寒く感じられず、夜気がほてった顔に返って気持よかった。
 私たちは5分程歩いて市民会館前の公園にたどりついた。あちこちにアベックが2人の世界にふけっていた。
 慎ちゃんと私は建物の横の隙間に導かれるように引き寄せられ、壁を背にして、性急に抱き合った。自然に唇を求め合いキスをした。身体と身体をどんなにくっつけても足りなかった。
 慎ちゃんは私の耳元に口をつけ「会いたかったよぉ」と何度も囁いた。そして「真理ちゃんはどうだったとぉ」と何回も聞いてきた。慎ちゃんの逞しい腕の中で、私はまた猫のように身をくねらせて、ただ「うん、うん」と頷いていた。
 そんな時、必ず、事態を冷静に見つめているもう1人の私がいて、真理子、お前はダメな女だね、シャンとしなさい、と言っている。※60へ

(写真は、近くの中学校の運動場の片隅、夕暮れの紅葉が美しい)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)

posted by hidamari at 12:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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