2005年11月30日


20051130c9a250e1.jpg※61 旅立ち
 11月末になって慎ちゃんは広田に帰ってきた。
 また、いつものローテーションでの生活が始まった。 洋裁の日の木曜日は相変わらず、つかの間の逢瀬の時間だった。逢瀬といってもバスの後ろから2番目の席に並んで座り、バスから降りて、手を繫いで歩いて帰るだけだった。だが、私たちは十分満たされていた。少なくとも私は、この平和な時間が少しでも長く続けられることを願っていた。
 心の中では、来年3月慎ちゃんが東京へ発つ時は、きっぱり別れようと決めていた。慎ちゃんにいつの時点で別れ話を持ち出そうかとぼんやり考えていたが、とにかくそれまでは今までどおり付き合っていこうと考えていた。
 別れるのだと意識しながら徐々に自分をコントロールしていこうと考えていたのだ。
 でも、私は自分の気持をコントロールすることで精一杯で、慎ちゃんの気持を思いやることまで気が廻っていなかった。

 そんな時、慎ちゃんが、私を教会へ連れていきたいと言った。
「クリスマスイブに、真理ちゃんを教会のミサに連れて行きたかとけど、いい?」
「教会?」
「うん、俺、実は去年、イブに教会に1人で行ったとよ。施設を出て以来、久しぶりにミサに行ったと。すごくよかった。今年必ず真理ちゃんを誘おうて決めてたと」
「……」
「いいやろ?」
「私、クリスチャンじゃないよ!」
「ううん、いいとよ、俺だって信者じゃないよ、クリスマスのミサは特別だから誰でもいいんだって、信者の人は白いベールを被るけん、それで区別出来ると」
「そうなの、で何時から?」
「夜の7時から、俺、学校も冬休みだし、ねえいいやろ?行こうよ」
「……そうね、何でも経験やもんね」
 教会は私にとって未知の世界だった。不安はあったが、……いい思い出にもなるし、と思った。
「いいよ、連れてって」と慎ちゃんの目を見て大きく頷いた。
 慎ちゃんは安心したように、にっこり笑い「いいね」と私の目に念をおした。私は首を何度も縦に振った。
 
「俺ね、真理ちゃんのこと、マリア様と思っとるよ」
「やめてよ、いやだよ」
「ごめん、でも、マリア様はねぇ、俺にとってずっとお袋だったし、恋人だったとよ。それがいつのまにかマリア様が真理ちゃんに重なったと」
「やめてよ、そんな世界、ヤだよ」
「どうして?」
「だってぇー」
「ごめん、……そうそう24日は天主堂入口の電停で待ち合わせしようね」
「うん、わかった」
 こうして私は、クリスマスイブに慎ちゃんと教会に行くことになった。※62へ

(写真は、最近私の周りでは遊んでいる畑を借りて、こじんまりと楽しみながら、農作業をしている人が増えている。1枚の畑に寄せ植えしてある畑)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)

posted by hidamari at 10:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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