2005年12月04日

道端のケイトウの花


道端の鶏頭の花.jpg※63 旅立ち
 昭和41年私は21歳、慎ちゃんは20歳になった。慎ちゃんは20歳といっても夜間高校4年生、やっと卒業の年を迎えたのだ。
 進学したり上京したりするのに、まとまったお金がいるのを、慎ちゃんは申訳なく思っていたのだろう。毎日身を粉にして働いた。おばあさんも、孫には違いない慎ちゃんを憎いはずはなく、東京へ発つ時は、ある程度のことはしなければならないと思っていた。そのことは、近所の人に、噂話として「おばあさんは、慎ちゃんに、この際、財産分けのつもりでまとまったお金を持たせるらしいよ。でも、秀雄さん夫婦がなかなかいい顔しないらしいけど」とまことしやかに伝わっていた。

 その年の秋、父は郵便局勤続20年のお祝いとして、局から旅行クーポンを頂いた。
 父はそれを機に、母と東京旅行を思い立ったのである。東京には母の妹がいる。そこに次姉の妙子もお世話になっていた。かねてから父母は、東京へは1度行ってみたいと思っていたことだった。
「真理子、留守番出来るか?」
「もちろん大丈夫よ」
「京子に来てもらってもいいが、戸田さんも付いて来るしなあー」
「大丈夫だって、1人暮らし、してる友達だっているよ。帰って寝るだけだから、何てことないよ」
「戸締りと火の始末だけは気をつけろよ」
 そう言って、父と母は、私に心を残しながらも、この月曜日に、1週間の予定で東京へと出かけて行ったのである。

 私は、慎ちゃんにそのことを言わない方がいいということは、分かっていた。
 1人ではぶっそうだと、必要以上に心配されることに、気が重かったこともあるが、もし「遊びに行く」と言われたら、私には断れないだろうと思ったのだ。

 木曜日の夜、洋裁の日がやってきた。
 バスを降りて、私はずっと考えていた。慎ちゃんではなく私自身が、彼に家にきて欲しいと願っているのに気がついていたからだ。
「今ね、父と母は東京へ行ってるとよ」と、ついに言ってしまった。
「えっ!ホントに!真理ちゃん、1人でいると?大丈夫ね」と案の定心配そうに聞いてきた。
「うん、もう3日経ったよ、平気だよ」
「でも、俺心配だよ、……おじさんたち、よく真理ちゃん1人残して行ったねえ」
「ううん、心配だとは思うよ、昨日も電話あったし」
「俺、用心棒に行ってやろうか」
「何言ってるのよ、父さんはそれが1番心配なんだから」
「そうだよねえ」
 いつの間にか、私の家の木戸に到着した。
「じゃあ、バイバイ」と私はいつものようにつないでいた慎ちゃんの右手を固く握りしめた。
 別れる時の合図だった。
 慎ちゃんは、返事をせずに私をそのまま抱き寄せた。※64へ

(写真は、道端に何気に咲いているケイトウの花。花好きの誰かが植えたもの。楽しませてもらっている)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
posted by hidamari at 23:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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