2005年12月08日

ホテルの中のクリスマスツリー


ツリー.jpg※65 旅立ち
 私の家の前を通っている道は、先に人家が5軒あるものの、午後の10時を過ぎると特別なことがない限り人は通らない。
 慎ちゃんだけが夜間高校から帰る時、私のことがあるのでわざわざこの道を通るのだが、それを知っているのは私だけである。
 木戸の前で私を抱きすくめた慎ちゃんは、父と母が留守というのがやはり気を楽にしているのだろう、なかなか私から離れようとしない。
「もう遅いから」と私は彼を軽く押した。すると、さらに強く私を抱きしめてきた慎ちゃんは「もう少しだけ」と私の耳元で囁いた。
「じゃあ、ちょっとだけ家に寄って行く?」と言うと、「うん」と驚きもせず、私の心を見透かしたように落ち着いていた。
 2人は木戸を入り裏口の鍵を開けて家に入った。
 家が留守の間、朝出る時、裏口から入る土間の豆電球を点けたままにしているので、暗い家の中にも難なく入ることが出来た。両親が出かけた翌日、夜帰宅して鍵穴が分からなくて困ったのでそうしているのだ。

 慎ちゃんが我が家に入るのは、餅つきの手伝い以来4年ぶりである。
 餅つきもあれっきり、家ですることはなかった。時代の流れで、お正月用の餅が簡単に外注出来るようになったこともあるが、慎ちゃんを手伝いとして我が家に呼ぶのに、まず母がいやがり父も抵抗があったのは否めなかった。
 慎ちゃんは心の中では、手伝いに呼ばれることを期待していたようだが、うすうす事情を感じ取って、仕方のないことと諦めたようだった。

 私たちは家の中に入ったとたん、無口になった。言葉を発しなくとも、お互いの心の中が手に取るように分かっているような気もした。でもそれ以上に、何かしら気まずくて、発する言葉が見つからなかったのかもしれない。
「私の部屋に行く?」
「うん」
 私たちはそれだけ言うと、2階に上がって行った。※66へ

(写真は、忘年会会場のホテルロビーで、飾り付けてあったクリスマスツリー)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)

posted by hidamari at 08:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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