2005年12月16日

八重椿


八重椿.jpg※69 旅立ち
 土曜日の夕方、父と母が帰ってきた。
「何もなかったか?」
「何もなかった、夕飯、シチューを作ったし、お風呂、沸かしてるから」
「おー、気が利くぞ、有難う、やっぱ家が1番いいよ、なあ、母さん」
「そうねえー、真理子が何も言わんとに、ご飯の準備とお風呂、沸かしてくれるとはねえ」
と、やたらと喜んでくれるのが、こそばゆかった。後ろめたい気持で一杯だった私は、何事も無かったように普通に接してくれることがただひたすら有難かった。心からほっとしたのだ。

 しかし、私自身は1週間前とは、身も心も変わってしまっていた。
 私はあれからというもの毎日が憂鬱だった。
 努めて明るくしていないと、いつの間にか沈みがちになってしまうので、母に感ずかれないか、常にヒヤヒヤしていた。東京の土産話も姉の妙子の話も、普通なら興味津々なのに、それどころではなかったのである。
 慎ちゃんと別れると決心していても、いよいよとなるとやはり辛かったし、手紙を書くことも一苦労だった。
 何より心を重くしていたのは、もしかして妊娠していないかという漠然とした不安だった。
 有り難いことに、昼間は職場の喧騒の中でもくもくと仕事をすることで、何もかも忘れることが出来た。
 しかし、就業時間が終わると、スイッチが切り替えられるように、モヤモヤとした憂鬱分子が頭を持ち上げてくるのだ。普通ならお腹がすいてたまらない夕飯時もいっこうに食欲がわかない。夜もなかなか寝付かれず、寝不足が続いていた。
 そんな状態だったが、水曜日の夜、私はやっと慎ちゃん宛の長い手紙を書き終えた。※70へ

(写真は、大きくてあまりに綺麗だったので折ってペットボトルに挿してみたもの。長くはもてないがちょっとの間は楽しめる)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)

posted by hidamari at 09:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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