2005年12月18日

横浜人形館の世界の人形


横浜人形館の世界の人形.jpg※70 旅立ち
[ 慎ちゃんへ
 手紙を書くのはこれが最後です。
 突然でごめんね。きっと驚くね。
 実は慎ちゃんに謝らないといけないことがあるのです。
 私たちはいつの頃からか、暗黙の了解で将来結婚しよう、ということになっているよね。
 手紙のやりとりで、慎ちゃんが2人の将来のことばかり書いていたのを、私はただ頼もしく思い、嬉しく読んでいたから。
 私も、結婚するなら慎ちゃん以外の男の人は考えられなかった。でも心の何処かで、慎ちゃんは高校を卒業したら東京へ行ってしまう、そうしたら別れることになるだろう、といつも不安でした。
 だから、先のことは考えないようにしていたのです。
 でも、昨年のクリスマスの夜、慎ちゃんが、誰も賛成してくれなくても教会で結婚式を挙げよう、と言ってくれた時は、さすがに胸が痛みました。それで、将来のことを真剣に考えたのです。
 その頃から、私は慎ちゃんが東京へ行ってしまう時、きっぱり別れようと、1人で決めたのです。ごめんなさい。貴方は真理子が親を捨てても自分と一緒になってくれると信じているんだよね。私もきっとそんなようなこと手紙で言ったと思うから。ごめん。そのことだけは嘘ついたことになる。
 ”別れる”なんて改まって言わなくても、慎ちゃんが東京へ行ってしまえば自然消滅するのでは、とも考えました。
 でも、それは私が出来なかったの。けじめをつけないままの自然消滅では私の気持に決着がつかず、前へ進めないのです。慎ちゃんだって人1倍真面目な性格だから、私に心を置いたままでは、新しい人生は考えないだろうと思ったの。
 ではなぜ、3月ではなく、今なの?と思うよね。それも私が貴方と別れるための自分勝手なけじめのつけ方だったのです。
 私たちはずっと愛し合っていたし、ずっと一緒に成長してきたよね。その今まで過ごした日々の証がどうしても欲しかったの。それで最後に慎ちゃんと心だけでなく身体も結ばれることが証になると思ったのです。あの日がチャンスだった。あらかじめ慎ちゃんにそんなこと言ったら、きっと拒否されたよね。ごめんね、黙っていて。

 あの夜は、とても幸せでした。この世に慎ちゃんと2人きりならどんなにいいかと思いました。あの夜慎ちゃんがとても優しかったことと、慎ちゃんの温かい肌のぬくもりを一生忘れることはないと思います。

 慎ちゃんのことを死ぬほど好きでも、慎ちゃんを裏切ることを選びます。結局、私は家族と縁が切れないということです。ホントにホントにごめんなさい。
 
 貴方は、4月から新しい生活が始まるのです。慎ちゃんのことだから、きっと成功すると思う。
 慎ちゃんが幸せになるように祈ってるからね。
 感謝をこめて……今まで有難う。
                                              真理子

 追伸
 洋裁教室は11月で辞めようと思います。だから、来週木曜日で終わりです。その日まではいつもと同じバスに乗るから席を取っていてね。その日は単なる幼なじみとして会ってください。]※71へ

(写真は、旅先で撮ったもの。人形は世界中で昔から愛されているのだとわかる)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)

posted by hidamari at 11:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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