2005年12月22日

湯布院―杉山冬景色


湯布院の杉山.jpg※72 旅立ち
 家に帰っても私の体調は優れなかった。
 私は一刻も早く眠りたかった。そして全てを忘れたかった。
 しかし、今頃慎ちゃんが手紙を読んでいるだろう、と思うと胸がドキドキしてとても眠れる状態ではなかった。
 いったい、彼はどう思うのだろうか。
 慎ちゃんだってこれからいよいよ自立するという時、私がいたのでは足でまといになるのではないか、結婚できる経済力を持つまでの間4年も5年も私を待たせるのは悪いと思うはずだ、等と思いを巡らすと、そんなに怒ることでもないのではないかとも思える。イヤ、きっとそうだ、捨てられるのは私なのだ。それが恐くて私から別れを言ってやったに過ぎないのだ。
 少し、不安がとれた。
 ホッとすると同時に、さっきもらった慎ちゃんからの手紙をまだ読んでないのに気がついた。
 ハンガーにかけていたコートのポケットから、封筒に入った手紙を取り出した。

[僕のマリア様―真理ちゃんへ
今日は月曜日です。ホントは会って話したいのですが、真理ちゃんが木曜日にしか会ってくれないというのでその時、今書いているこの手紙を渡すことになるでしょう。
 実は、嬉しい報告があるのです。就職が内定しました。大田区にある小さな鉄工所です。中小企業ですが、夜学に通うという条件で雇ってもらいました。学校推薦だったので、担任からほぼ間違いない、と言われていたのですが、内定をもらうまではと、黙っていました。決ったら1番に真理ちゃんに話したかったのですが、待ちきれず、祖母ちゃんに先に言ってしまいました。ゴメンね。
 大学も帝都大工学部2部に推薦で行けそうです。
 来年早々の1月13日に1度上京して一応受験します。担任が言うには、まず落ちることはないそうです。なにしろ、僕は成績優秀ですからね……。
 上京した折、ついでに就職先にも出向き、簡単な面接を受けて、住居などを決めてきます。
 着々と旅立ちの日が近づいてきます。
 でも、その時は真理ちゃんと離れ離れになるのですね。それが今1番心配なことです。
 もともと進学しようと決めたのは、真理ちゃんと出会ったからです。貴方にふさわしい男になるためのステップなのです。大学を出て、エンジニアになり、ちゃんとした生活をしたいのです。
 だから、僕は遠距離でも辛抱出来ます。真理ちゃんも待っていてくれるよね。
 東京でしばらく様子をみて、落ち着いたらなるだけ早く呼び寄せます。その時は一緒に暮らそう。もちろん結婚して。
 僕と真理ちゃんはたとえ離れていても一心同体でしょ。僕はそれを信じて一生懸命頑張ってきたし、これからも頑張るから、どうかそのつもりでいてください。。
 手紙は、真理ちゃんの会社に出します。僕の住所は決り次第知らせるから。
 あとは、その都度話します。まだ、4ヶ月も先のことだから、いっぱい話し出来るでしょ。じゃあね。
  11月15日(月)      真理子の ― 慎より]

(写真は、旅先湯布院の山の冬景色、空が突き抜けるように青いのが美しい)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)

posted by hidamari at 09:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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