2005年12月24日

ひだまりでグルーミングするサル


グルーミングするサル.jpg※73 旅立ち
 慎ちゃんの就職が内定したこと、大学も決まりそうなことを手紙によって知った。
 ― 慎ちゃん、頑張ったんだ、よかったねえ― と、心から言ってやりたかった。
 でも、慎ちゃんの自立は、私には辛い別れとなるのだ。
 慎ちゃんは簡単に東京へ来いというが、仕事を辞め、親に逆らって彼の所へ行くなどとは、至難の業だ。改めてとても出来そうにない、これでよかったのだと思った。
 そう思うと、やっと私はゆっくり眠ることが出来たのだった。

 朝、「真理子、早くしないと遅れるよ」と母に起こされるまで、久しぶりに目が覚めなかった。
 バタバタと支度をしてトーストをかじりながら「行ってきます」と言うのももどかしく、外へ飛び出した。
 国道へ出ると、そこに慎ちゃんが亡霊のように立っていた。
「ああっ、びっくりした、おはよう。あっ、それから、就職決ったんだって!おめでとう」と私は反射的に声をかけた。
 私の言うことには返事もせず「俺、まんじりともせず夜が明けるのを待ってたよ」と、慎ちゃんはじっと私を見た。その目は真っ赤で涙で潤んでいた。
「俺、信じられんよ、別れるなんて絶対イヤだからね、嘘やろ、ねえ嘘だと言ってよ」
 慎ちゃんはすがるように私に詰め寄った。
「ごめん、ホントだから」
「そんなこと、納得出来ん」
 慎ちゃんは頭を横に振り茫然としていたが、唇を噛みしめて救いを求めるように私を見すえた。
「ごめん、遅れそうだから、もう行くね」
「ちょっと待ってよ、……この手紙、寝ないで書いたんだから、読んで」
 慎ちゃんは私の肩をあらあらしく掴むと、いつもより厚い封筒を押し付けるように私に渡した。
 一瞬、険悪なムードが走った。
 私は彼が初めて見せる暴力的な行為にたじろぎ、「分かった、じゃあ行くから」と小声でボソッと言って、腕時計に目をやりながら、逃げるようにバス停の方角へ向かって走った。
 
 慎ちゃんの憎悪に満ちた目が私の背中を刺している。脳裏には彼の狂おしい目が焼きついた。
 こんな場面もありえると想定出来ていた。しかし、どんなことがあっても絶対後戻りは出来ないのだ、と自分に言い聞かせていた。74へ

(写真は、冬の日だまりの中でグルーミング〈毛づくろい〉していた高崎山のサル)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)

posted by hidamari at 12:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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