2005年12月26日

別府―湯煙の朝


別府の朝の湯煙.jpg※74 旅立ち
 慎ちゃんの手紙は、会社のトイレの中で読もうと思った。
 内容は大体想像出来た。急いで読むこともなかった。
 朝の職場は戦場のように忙しい。机で手紙などゆっくり読んでいられないし、周りにはしょっちゅう誰かが立ち回っているので、落ち着いて読めるはずがない。手紙の内容によっては動揺して仕事が出来ないかもしれない。
 
 昼休みが来るのを待ってトイレに駆け込んだ。
 手紙を開ける手が震えた。身体全体が宙に浮いているように安定しなかった。やはり緊張しているのだ。
 手紙の字は大きくて乱雑だった。慎ちゃんの慟哭が現れていた。

[ 真理ちゃんの手紙、楽しみにしていたのでウキウキして読んだ。
 でも、内容を読んで力が抜けた。悪夢をみているようだ。涙で前が見えない。僕は明日からどうすればいいか分からない。今すぐ真理ちゃんの所へ飛んで行き、胸ぐらをつかみ真意を聞きたい。僕にはとても信じられないことだ。
 でも、やっぱり、行けない。おじさんやおばさんがびっくりするだろうから。
 それで、もうろうとして、手紙を書いている。
 真理ちゃんが僕の前にいるような感じで、思いついたことを何の脈絡もなく書く。
 字もきれいに書けない。
 何かしていないと朝までもたない。

 もともと僕は真理ちゃんとは住む世界が違うと思って、あんたのこと何とも思っていなかったんだ。
 それをあんたが優しくしてくれて、僕は生まれ変われると思った。生きててよかったと思った。
 あんたはずっと、僕のマリア様だったし、生きる支えなのだ。そのことはあんたも知っていることだろ?
 天使のような顔をして、心の中では僕を騙していたのか。

 僕と離れるのが不安というのが理由なら、僕は東京へは行かないよ。大学は福岡にだってあるんだから。僕が東京を選んだのは、東京の方が2人の夢が叶うと思ったからだ。
 おじさんおばさんに頭下げろというのなら、そんなことは僕の中ではいつだって考えていたことだ。真理ちゃんがダメだというから、しなかっただけだ。
 東京で今すぐ一緒に暮らしたいというなら、土方したって真理ちゃんを養っていくよ。
 とにかく、僕は真理ちゃんの思うとおりになるから。今までだってあんたのいうとおりにしてきたし、ずっと真理ちゃんの思うとおりになろうと思っている。
 あんたは僕を天国へ連れてきておいて、そこから地獄に突き落とそうとしている。
 ひどいよ。
 お願いだから、考え直してくれ。
 別れて、というのは、死ね、というのと同じことなんだ。
 真理ちゃん、別れるなら俺を殺してよ。僕は1人でこの先、とても生きていけそうにない。
 真理ちゃん、一緒に死んでくれないか。
 イヤ、それが出来ないなら、あんたを殺して俺も死ぬ。
 僕は死ぬのはちっとも恐くない。真理ちゃんを失うのが恐い。
 とにかく、真理ちゃんと別れるのは僕が死ぬ時だ。覚えといて]75へ

(写真は、旅先で、ホテルの窓から撮ったもの)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)

 

posted by hidamari at 11:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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