2006年01月16日

吉野ヶ里遺跡―支配者の館


復元された支配メの館.jpg※84 旅立ち
 その夜、遅くまで眠れなかった。このまま一生会えなくていいの?とずっと自分に問いかけていた。もちろんいいに決っていた。私自身がそれを望んだことだった。
 それなのに、日曜日、私は全く落ち着かなかった。洗濯していても、掃除していても、心はうわの空だった。それでも洗濯、掃除を一応済ませた。すると、もう何もする気になれなかった。ところが、何か他に大事なことをしなければならないようで落ち着かないのだ。
 母に話しかけられると、返事するのもうっとうしく、訳もなくイライラした。そして自己嫌悪に陥った。私はそんな自分をどうすることも出来ず、自分の部屋へ閉じこもって悶々としているしかなかった。
 そのうちに眠ってしまったとみえる。ふと目が覚めて時計を見ると、針は午後5時を指している。
 その時だった。頭の中に突然光が射したのだ。光の中に砂山が浮かんだ。
 ―砂山へ行ってみよう― 
 なぜ、このことを今まで思いつかなかったのか、不思議だった。
 それから大急ぎで鏡の前へ行き、手早く薄く化粧をした。ジャージを脱ぎ、白いブラウスとベージュのカーディガン、青いフレヤースカートを着た。慎ちゃんが以前にかわいいと言ってくれた組合わせだった。

 階下にそっと降りていくと、幸い母の姿はなかった。私は無我夢中で裏口から駆け出していた。
 国道を横切り、山を駆け登った所で、息が切れた。ハッと気がついた。― 何でそんなに急ぐの?慎ちゃんが居るはずないでしょ。一体私は何をしようとしているのだろう― と思った。力が抜けた。
―いいのよ、慎ちゃんにたとえ会えなくても、でも、会えるとしたらここしかない、だから、後悔しないために行くのだ―と改めて自分に言い聞かせた。
 それは、私の頭の中に突然、― 慎ちゃんも、ひょっとしたら、節目節目で2人が会ったこの砂山を懐かしく思って来てくれるかもしれない ― とひらめいたからだった。
 ドキドキしながらいつもの原っぱへたどり着いた。

 そこには、なんと、紛れもない懐かしい慎ちゃんの後姿があった。私の胸は張り裂けんばかりに喜びに震えた。しかも竹の下バス停で見た、あの人を寄せ付けない岩のような背中ではなかった。彼の背中は広くてがっちりしていたが、寂しげで哀愁が漂っていた。
 走っていってすがりつきたい衝動にかられた。が、さすがに、気安く身体に触れ合える間柄ではもはやないのだ、と自分を抑えた。85へ

(写真は、吉野ヶ里遺跡のクニ(集落)に復元された支配者の館。発堀された柱の穴を元に想像して復元されている)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)
 
posted by hidamari at 10:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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