2006年01月20日

レース編み


レース編み.jpg※86 旅立ち
 慎ちゃんと私は、いつの間にか、目の前に田畑が広がっている見晴らしのいい、いつもの場所まで、戻っていた。
「ここへ来るのも久しぶりねー、半年以上来てないもんね」
「何言いよる、俺毎週日曜日に来てたよ。真理ちゃんが思い直して、会いに来てくれるかもしれん、て思っとったから。でも、ホントはとっくにあきらめとった。今日は5時に守山さんちへ挨拶に行くことにしてたと。それが知らん間にここへ来てしもうて、1時間近くボーッて、しとった。そこへ真理ちゃんが来たとよ」
「そう、……ここにずっと来てたの、そうねー、タローの散歩もあったしねー」
「違うよ、タロー、散歩に出たがらんとよ、ここんとこ寝てばかりだもん、もう老犬やもんね。……それより俺、真理ちゃんの心変わりがどうしても信じられんやったとよ」
「……ごめんね、……そうだ、今から守山さんちへ行くんでしょ?お母さんと会うとやね、ごめんね、遅くなったね」
「うん、でもお母さんは昨日広田に来てくれたと。お祖母さんから守山さんにも挨拶に行くように言われたから、……でも後でいい、真理ちゃんの方が僕にとっては大切だから。……ここにいてよかったよ」
「うん、私たちやっぱ赤い糸で結ばれていたんだよ」
「それなら嬉しいよ……手紙書くから」
 慎ちゃんは、そうだ、といってポケットの中から折畳んだ紙切れを私に渡した。
「これ、真理ちゃんにやる時があるかもしれんて、いつも用意しとったと」
 開けてみると、住所と電話番号が書いてあるメモだった。
「うん、有難う、手紙待ってるけん。連休にはお金貯めて東京へ会いにいくね」
「えっ、ホント!約束だよ、俺もそのうちお金貯めて旅費送るから、……時々会えるよね」
 何だか、今まで悩んでいたことが、嘘のようだった。何も心配することはなかったような、今までの苦悩や心の葛藤がバカげたことに思えた。

 慎ちゃんはフッと暗い顔になり、
「俺ね、真理ちゃんと別れるなら、大学卒業したら、南米にでも移住しようと思っとった、大学の先輩たちがペルーやブラジルで成功してるってパンフレットに書いてあったから、本気で考えとった。……でも」と、今度は明るい顔だった。
「よかったよ、そんなことにならんで。俺、頑張る、真理ちゃんのためなら頑張れるから、絶対いいところに就職するから。真理ちゃん有難う」
 私は慎ちゃんのことばを、1つ1つ心に刻みながら聞いていた。87へ

(写真は、今年になって随筆の会の友人から、手作りのレース編みを頂いた。気持が嬉しかったので、いつも見ることが出来る居間のプリンターにさっそくかけた。部屋が明るくなったよう)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載中)

posted by hidamari at 11:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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