2006年01月22日

ホテルの部屋に飾ってあった活け花


ホテルの部屋の活け花.jpg※87 旅立ち
 私たちが座っている砂山の西端から眼下には、段々畑が広がりその先は田んぼが続いている。畑の草は瑞々しい黄緑一色で、一面に春の香りを漂よわせている。田んぼには、まだ花が咲いてないれんげ草が、緑のじゅうたんのように敷きつめられ、夕日に輝いている。
 久しぶりに見るこの見慣れた景色が、まるで生まれ変わったようにイキイキと息吹き、私の心を捕らえた。でも、慎ちゃんとこうして見るのは、これが最後になると思うと、やはり心細く、こみあげてくるものを抑えきれない。
 隣にいる慎ちゃんは、この景色を今どんな気持で見ているのだろうか?
 2人はしばし無言でこの古里の景色を見入っていたのである。
 夕暮れの長い光線は、その私たち2人をスポットライトのように照らしていた。
 その光線の元の真っ赤な太陽は、2人がただぼんやりと見ている間に、徐々に稜線に消えていった。
 「そろそろ行かないと」と私が思い腰を上げて言うと、慎ちゃんも「そうだね」としぶしぶ立ち上がった。
 
 向きを変えてふっと山の方に目をやると、緑の木々の間に真紅の藪椿の花が1輪浮き上がっていた。
「慎ちゃん、見て見て、あれ藪椿の花だよね!」
「あっ、ホントだ、まだ、散らんで残っとったとやねー」
「うん、……慎ちゃんがいつだったか、あの花、折って私にくれたこと、覚えてる?」
「うん、もちろん。……折って来ようか?」
「ううん、あのままにしとこ、あれ1輪残ってる、ていうのは、私たちの絆が残ってた、ていう証かもよ」
 慎ちゃんも納得したように大きく頷いた。              (完)

(写真は、暮に泊まったホテルの部屋の中の活け花)
(上記小説は、カテゴリー小説[藪椿]で連載して参りましたが、今回を持ちまして完結しました)

posted by hidamari at 11:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 [藪椿] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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