2006年03月08日

運動公園の一隅


運動公園の一隅.jpg※20
 コート場に入る扉を開けて、矢部が座っているベンチへ、晴美は恐る恐る近づいていった。
「やあー」と矢部は手を揚げてにこやかに挨拶してくれた。
「おはよう」と晴美は言いながらベンチへ座り込んだ。
「なんだ、元気ないなあ、俺とペア組んで次やるかあ?俺が教えてやるよ」
「ううん、別にテニスしにきたんじゃないの」
「バカだなあ、見てるだけじゃつまんないぞぉ」
「ラケット、返しにきたの。返したらすぐ帰るから」
「へえーそっかー、……東元さんとペア組んでる人、気になるだろう。あの人東元さんの彼女、ていうか、フィアンセかな?」
 晴美はやっぱりと思った。それに、矢部が、晴美の啓介に対する思いを見透かしているような、言い方をするのが気になった。さらに、
「残念だったねえ、狙ってたんだろう?東元さんあのとおりルックスがいいから女性にもてるんだよねえ」と、晴美自身も開けたことの無い心の扉をこじ開けてくる。
「ルックスもだけど、優しいからでしょ?」
「そうかなあー、俺の方がうんと優しいと思うんだけどなあ、……どおー、俺と付き合わないか?」
「何言ってるの、それに狙ってなんかいません」
 晴美は軽く受け流しながら、矢部と啓介の違いをふっと頭の中で考えていた。
 ルックスが違うのはもちろんだが、確かに矢部だって優しくないことはない。晴美とは年齢も一緒ということもあり、最初から気を使わなくてよかった。会えば冗談ばかり言って笑わせてくれるし、男性を意識させない貴重な存在である。しかし、心からの優しさはない。今のようにデリカシーの無いことばも平気で吐く、子供っぽくて、自分よがりでむらのある優しさなのだ。

 女性たちは、男性の何気ない親切な行動や、身に付いた優しいことばやしぐさに、ハリネズミのように敏感なのだ。やっかいなことにそんな男性は、誰に対しても優しさが向けられるのである。
 啓介もご多分に漏れず、きっと誰にでも優しいのだろう。周りの女性が、彼の虜になるのは止むを得ないことだった。※21へ

(写真は、ウイークデーの静かな運動公園の池。若葉はまだまだだが空気が澄み切って綺麗だった)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 11:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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