2006年03月10日

樹木のオブジェ


樹木のオブジェ.jpg※21
「ねえ、蒲田さんてお子さんいらっしゃるんでしょう?」
「うん、男の子3人いるよ。6年生、4年生、2年生なんだって、3人とも剣道習っててね、とてもかわいいよ」
「お父さんが休み毎にテニスじゃ、家族孝行出来ないよね」
「おまえ、そんなよその家庭のこと、どうでもいいじゃないか。それに俺たち蒲田さんが来ないとメンバーが足りなくて困るよ」
「あ、ごめん、今ふっと思っただけなの」
 晴美は、田鶴子の存在で動揺している自分を悟られるのを避けるために、話題を変えたかっただけだった。蒲田の姿を見ていて、ホントにふと思ったことだった。

 試合が終ったのだろう。5人がベンチに戻ってきた。
「こんにちは」
 晴美は立ってお辞儀をした。
「いらっしゃい」
「こんにちは」
 蒲田、慶子、麻美はにこやかに晴美を迎えた。
 啓介はけげんな面持ちの田鶴子に
「事務所に今年入った川口さん」と晴美に手を向けて紹介した。
 晴美には「栗山田鶴子さん、僕の友人」と紹介した。
「こんにちは」と、晴美はお辞儀しながら、田鶴子が自分のことをあまり歓迎していないというのを察知した。田鶴子の美しい顔が一瞬曇ったのを晴美は見逃さなかったのだ。
「こんにちは」と、形だけのあいさつをした田鶴子は、啓介に「しばらくやってなかったから、やっぱ駄目ね、ごめん」と言って、ベンチに座り、置いてある啓介のスポーツバッグからペットボトルを出して「ハイ」と差し出した。
「ありがとう」と言いながら、啓介はタオルで汗を拭き、田鶴子のいるベンチへ座った。2人が公然の仲というのを立証するものだった。
 蒲田と慶子はお手洗いにでも行くのか、コート場から出て病院の方へ立ち去っていく。麻美は自動販売機の前にいた。矢部はベンチに座り、ニヤニヤしながら晴美たちを覗っている。
 晴美は、一刻も早く、田鶴子が抱いていると思われる自分に対するカン違いを解きたかった。
 田鶴子に無視されたまま、そこに居るのもいたたまれない。
「あのぉ、東元さん、すみません」と晴美は啓介と田鶴子の所へ近づいていった。
「私、実はテニスやる気ありませんので、ラケットお返ししようと思って」とラケットを啓介に差し出した。※22へ

(写真は、運動公園の運動場の周りの樹木。枝が切り込まれているので、まるで動物のオブジェのようだった)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 12:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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