2006年03月18日

港内に停泊している船


港内に停泊する船.jpg※25
 晴美は秋津と佳代のやりとりをドキドキしながら聞いていた。
「でも、それで」
「それが、今度7月の異動で新垣先生、沖縄へ帰ることになったらしいのよ。先生のご実家、沖縄で開業医しているらしくて…、そいで退職してお父さんと一緒にやっていくんですって」
「なら、新垣先生、平川さんと別れるっていうの?」
「そうなの、平川さんは2年間妻同然の生活をしていたっていうから、当然結婚を望んでいたんじゃないの?」
 秋津はお弁当の包みを開けることもせず、話に熱中していた。佳代と晴美は仕出しのお弁当をつつきながら聞いていた。
 秋津は突然声を潜めると、
「それに、彼女妊娠してたらしいの、それで、結婚をせまったらしいけど、先生、そんな気ないから、堕胎してくれって言ったらしいのよ」
「ええっ!それひどい」佳代と晴美は同時に声を発していた。
「それで泣く泣く彼女堕胎したって聞いたわ、それが2〜3日前の非番の日だったんじゃないの?昨日は休んでたようだから、……今日出勤した彼女を稲田さんが慰めていたんじゃないの?」
「じゃあ、上司も知っているのね」と佳代は憤りを隠せない様子で言った。
「そうね、でも独身どうしでしょう、お互い大人だし、プライバシーには誰も関わりたくないのよ、先生たちは多かれ少なかれ色恋沙汰は経験しておられるからね」

 晴美は目を丸くして聞き入っていた。晴美の知らない世界だった。
「えっ、そうなんですか?みごとにハッピーエンドってのはないんですか?」
 晴美は、新垣だって、サトミが好きなはず、と思ったのだ。
「私が知る限りまずなかったわね、ましてや平川さんは出が小さな農家であんまり裕福じゃないのよ、正看じゃないの、準看っていうのもネックじゃないの?」
 佳代と晴美は弁当を食べ終わった。何を食べたか分からないほど、衝撃的な話の内容だった。
 秋津は既に知っていたことなので咀嚼(そしゃく)されているのだろう、何も大したことではないの、病院ではよくあることだから、と何でもないように言った。
 しかし、顔は上気していたし、お弁当を食べるのを後回しにするほど、興奮していたのは間違いなかった。

 佳代に、お弁当早く食べたらと促され、秋津はやっと、子供のお下がりと思える小さなブリキ製のかわいいお弁当箱に詰めた、持参のお弁当を食べ始めた。※26へ

(写真は、曇り空の港内の片隅)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 17:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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