2006年03月22日

山桜


山桜.jpg※27
 秋津は決して意地悪なのではない。年齢を重ねると人は誰でも、それまでに培った自分の持っている知識を若い人に押し付けたくなるらしい。聞いて損なことはないので、晴美は努めて素直に聞くように心がけている。
 秋津は、お茶の入れ方、掃除の仕方、お手洗いの使い方等、仕事に直接関係ないことまで、日常茶飯事、晴美がすることに口を出したがった。
 例えば、
「朝仕事前に職員に出すお茶や来客に出すお茶は、湯呑半分くらい注げばいいのよ。ただし、お昼の食事時に出すお茶は、なみなみと注いでいいわ。でも、緑茶じゃなくほうじ茶にするのよ」と、なるほどと思うことを教えてくれる。そこまでは、晴美は素直に聞けるのだ。ところが必ずその後に「そうしたら、経済的にもいいでしょ。女性はお茶出し1つにも、賢い人とそうでない人は差がつくのよ。貴女は頭がいいのだから分かるでしょ」等という一言が付け加えられるのだ。
 雑巾がけをしていると、
「机は濡れ雑巾で拭くだけでは駄目よ、必ず後から乾いた雑巾で水分を拭き取るの、そうしないと汚れは取れないし返ってゴミがまた机についちゃうから」と言って、その後「お化粧は面倒がらずに何種類も顔に塗るでしょう」が付け加えられる。
 また、トイレや洗面所では
「誰がトイレを汚したの?洗面所に髪の毛が落ちてるよ。汚した人は掃除しなさい」と言った後「トイレや洗面所を掃除すれば、美人の赤ん坊が生まれるよ」と、一言付け加えられるのだ。
 晴美はその毎度の一言を聞くのが苦痛だった。
―平川さんの恋愛事件で私に何が及ぶの?何を言われるのだろう―と晴美は不安な気持ちで秋津の顔を覗った。※28へ

(写真は、遠くからぼんやり見えるのが趣がある山桜)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 22:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック