2006年03月26日

よもぎ餅


よもぎ餅.jpg※29
 7月、晴美はすっかり病院に溶け込んでいた。診療報酬請求事務の期間を除けば残業も殆んどすることがなかった。
 業務は午後5時に終る。佳代は5時前に既に帰る準備を終えていて、5時の時報と同時に病院を出て行く。佳代はそれからスーパーへ買物へ行き、夕食の準備をするという。大きなお腹を抱えて孤軍奮闘している佳代の姿を横で見ていて、晴美はたいへんだと思いつつ、少しばかり羨ましかった。自分もいつかは結婚出来るのだろうか。その前に恋人が出来るのだろうかと、漠然とした不安が常にあったからだ。
 7月末、佳代はやっと産休に入った。佳代にとっては待ちに待っていたことだったが、晴美にはやはり寂しいことだった。秋津と佳代と晴美は、佳代を中心に絶妙なトライアングルが出来、それなりにうまくいっていた。
 晴美は、佳代が居なくなり、何となく不安な冴えない毎日を送っていた。
 
 その日暑い日だった。
 通常5時40分のバスに乗ることにしているのだが、たまたま守備よく後片付けが終わったため、1台前のバスに間に合うかもしれないと、晴美は早めに病院を出た。病院を早く抜け出したいと思うのは、少しネガティブになっていたのかもしれない。
 バス停は5時過ぎとはいえ、まだまだ太陽が照りつけていた。晴美は少しでも涼しい所へと街路樹の陰に入りこんでいた。
 ―こんなに早く帰ってもほんとにすることないなあ―とぼんやり考えている所へ、突然目の前にバイクが止まった。
 啓介だった。
 ヘルメットを持ち上げニコッと笑った。
 とたんに、晴美の胸の鼓動が、スイッチONされたように波打ち始めた。30へ

(写真は、きれいなよもぎを摘んで作る季節のお菓子)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 13:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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