2006年04月05日

山里の見える桜道―C


C.jpg※34
 晴美は有り得ないことだと思った。
 手を繋ぐのは男女の愛の証しで、何も関係ない男女がたやすくやることではないと、ずっと思っていたのだ。
 晴美は20歳になる今まで恋人がいたことがない。もちろん男性から手を握られるという経験は、考えてみれば父親意外に思い出せない。
 啓介の手はその父のように大きくて温かく、懐かしい感じがした。自分の胸の鼓動が手まで伝わり、啓介に感じ取られているようで、とてつもなく恥かしかった。手のみならず、顔までほてってくる。

 啓介は晴美が動揺しているのが分かったのか、晴美が離そうと思えばいつでも離せるように、手を握る力を弱めた。
 晴美は、私の意志に任せられたのだ、と感じ取った。
 しかし、その手を離すと二度と握ってもらえないような気がして、何となくこそばゆく感じる右手をがまんして、握られるままにしていた。

 あっという間に岩場の丘に着いた。晴美には物足りないほど短い時間に感じられた。
 啓介は、だだっ広い大きな石を見つけると、海を眺めるかっこうで腰をおろした。
 胸の鼓動も大分収まった晴美は、すんなりと啓介の横に納まった。
 2人はしばらく、海と、夕陽と、西の空に浮かんだ雲が次々と茜色に染まっていく様を、時の経つのも忘れてじっと眺めていた。※35へ

(写真は、桜道から見下ろした所に広がっていた山里)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 11:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック