2006年04月19日

石橋のある風景


橋のある風景.jpg※41
 9月末の土曜の午後、病院では恒例の職員演芸祭が開かれた。晴美にとっては初めて体験する行事だった。
 個人で芸を発表する人、診療科毎のグループで出し物を披露する人達、比較的元気な入院患者さんの、飛び入り参加もあったりした。
 晴美は、得意な芸が無いからという訳ではないが、もともと、人前に出て何かをするというタイプではない。ただ、見るのは大好きだった。
 病院の主のような秋津から、この演芸祭の薀蓄をいろいろ聞かされるのはうんざりだったので、晴美は、会場でしきりに彼女から手招きされても、あえて大人しそうな薬局の慶子の隣に座った。
 管理部門からの出し物として、薬剤師の蒲田がフォークソングをソロで歌うことになっていた。そのギター伴奏を啓介が買って出るとのことだった。

 蒲田と慶子は仕事も薬剤師とその補助、テニスではダブルスを組んでいる間柄である。長年一緒に行動している慶子なら、きっと蒲田がこの舞台で歌うことに関心を持ち、蒲田の歌も聞いたことがあるかもしれない。
 そう思った晴美は、蒲田がいったいどれくらいの歌唱力があるのか聞いてみたい気がした。
「蒲田さんて、そんなに歌が上手いんですか?」
「ええー、それはもう……、それに東元さんのギターはプロ並みよ、だから大丈夫!入賞間違いないわ。貴方も応援してね」
 「へえー、…分かりました。ソロで自ら歌われるくらいですもの、上手いに決ってますよね」
「ええ、もちろんそうよ、……上手くいくと良いのだけど、……ドキドキするわ」
 慶子は自分のことのようにソワソワ落ち着かない様子で興奮していた。
 その慶子の様子が、晴美にはちょっと異様に感じられたが、彼女はきっと見かけによらず、感受性が強い人なのだ、と何となくその時は納得したのである。
 それに晴美は ―自分だって、啓介のギター演奏を聞けることを、こんなにワクワクした気持ちで待っているんだもの― と思ったからだ。※42へ

(写真は、日曜日に随筆の会が開かれた会場近くで撮ったもの)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 22:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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