2006年05月09日

街路樹とつつじ


街路樹とつつじ.jpg※50
      ※
 啓介は、今さらながら女性の恐さを、思い知らされていた。
 慶子が蒲田を慕っていたのは、日頃のそぶりで分かっていた。
 自分が男だから思うのだろうか?
 蒲田の方はそこまで慶子を好きだったとは、どうしても思えないのだ。
 慶子が妊娠でもして、生きるの死ぬの、の痴話喧嘩があったとすれば納得出来ることである。
 蒲田は、慶子のために自分の人生を捨てたのだ。そうとしか考えられなかった。
 思えば、慶子が炎のような強い性格だったことを、啓介は知っていたような気がする。
 見た目は控えめで、口数の少ない優しい女だった。
 ところが、慶子には、テニスをしている時垣間見せる、どんなに打ち込まれてもひるまない、負けず嫌いな強い一面があったのだ。

 1回り以上も年齢差があったが、啓介にとっては、蒲田は、人生のいい先輩であり、遊び仲間でもあった。自宅に呼ばれて飲んだこともある。その時は、夫婦仲もうまくいっているように見えた。何より子供たちは、父親を慕っていたし、尊敬していた。
 自分にまとわり着く子供たちを、蒲田は嬉しそうに優しく見守っていた。
 
 2人の失踪以来、啓介は度々蒲田家を訪ね、子供たちの世話をしたり、彼らを探すことを手伝ったりしていた。そして残された家族の悲しみと苦悩を、イヤでも目の当たりした。胸がえぐられるようだった。
 啓介が、彼らと一緒に、休み毎にテニスをしていたことも周知のことだった。その上、彼らと一緒に何回も飲みに行ったこともある。
 蒲田の妻は、2人の関係を、啓介が知らなかったはずはないと思っているだろう。
 啓介は、自問自答してみる。
―俺は知っていたのか。もし、知っていたら止めることが出来たのか―
―知っていたような気もする。でも、蒲田がそんなバカなまねをするとは思っていなかった。どうせ遊びだろうと思っていたから、かかわりたくなかった。それがいけないのか―
 俺に何が出来たというのだ、恐い女に近づいた蒲田が全て悪いのだ、と思うしかなかった。
 それにしても、
 蒲田はホントに慶子の肉体に溺れたのだろうか?
 肉体に溺れるということは、いったい、どういうことだろう?
 そんなことが、あり得るのだろうか?
 ただ、惰性に流されているうちに、自暴自棄になったのだ。現実から逃れたかったのだ。ずるい、としか言いようがない。
 これは、家庭人として社会人として許されることではない。
 蒲田は、何時の日か、天から罰が下るだろう。
 啓介のわだかまりも、当分消えそうになかった。※51へ

(写真は、若葉の街路樹と色鮮やかなつつじのコラボレーション)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 10:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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