2006年05月15日

歩道の花壇


遊歩道.jpg※53
 暮も押し詰まった12月末、いつものように出勤した晴美は、事務所内がザワザワとしているのが気になった。
 また、何か起きたのかと、早々と机に座って書き物をしていた秋津に、
「何かあったのですか?」と聞いてみた。
「ああー」と手を休めた秋津は、はっきりした二重まぶたの大きな目をますます大きく見開き、首をグルグル廻した。
 朝から、肩がこっているのだろうか。
「昨日の深夜、いえ、今日未明かな、入院患者の長谷屋さんが亡くなったのよ」と、空ろな表情だ。
「えっ!あの肺炎で入院していた人ですか?」
「そう」
「でもあの方、たしか金曜日に、明日ですよね、退院て聞いていましたけど」
「そう、そうだったのよ。それなのに、昨日外泊許可もらって外出したらしいの。ところが、彼、愛人の所へ行ったらしいのよ。そこで深夜こともあろうに腹上死したんですって」
「……腹上死って?」
 そこへ何時の間に来たのか、検査技師の加藤が、ニヤッと笑って話の中に入ってきた。
 加藤は病院に2人いる臨床検査技師の1人で年齢は55才位。鼻の頭に欠陥が浮き出ているのが、お酒好きを実証している。
「川口さん、まだ男女のこと何も知らないんだね、腹上死っていうのはねぇ、男女の行為の最中に男性が女性の腹の上でそのまま心臓が止まってしまうことなんだよ」と、とくとくとして話してくれた。
「ええーっ、そんなことってあるんですか?」
 晴美は大袈裟と思えるほど驚いた。実際、胸がドキドキするほどびっくりしたのだ。それに、亡くなったという話は厳粛に聞かなければならないのに、晴美にはなぜか恥かしい破廉恥な話に聞こえてしまったのである。※54へ

(写真は、毎週プールに行く道路脇の歩道の花)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 21:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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