2006年05月19日

フロントガラス越しの景色


フロントガラス越しの景色.jpg※55
「長谷屋さん、彼女を訪ねるのに絶好のチャンスだと思ったんですな、退院したらその彼女ともしばらくは会えんでしょうから」
「それで、入院中にもかかわらず会いに行ったんですか。……奥さんは愛人がいたことや、その人がしょっちゅうお見舞いに来ていたこと、ご存知なかったんでしょうか」と、晴美が不思議がると、
「奥さん、何も知らなかったんですって、奥さんは昼間看護に来ても夕方は帰るでしょ、女先生は学校が終って、夕方来てたらしいから」と秋津が、口をすぼめたり、目をクルクル動かしたりしながら説明した。
 ところで、さっきのことだけど、と加藤が身を乗り出した。
「私、長谷屋さん、天罰だとは思わないです。むしろ少し羨ましいですな」
「えっ、なぜですか?」と晴美はけげんな顔で加藤を見た。
「だってそうでしょ、人間はいつかは死ぬんですよ。ガンで苦しんで死ぬ人もいるし、交通事故で死ぬ人もいるし、老衰でボケて死ぬ人もいますしね。それだったら、好きな女性の上で快感の頂点で死ねるのは、男の本望というものですよ」
「ええーっ!」と秋津と晴美は思わず同時に声を発していた。声高になりあわてて周りを見回した。
 始業前の事務室はざわざわしていたせいもあり、3人の話の内容に誰も気がついていない。
 それでも晴美はちょっと声を落とした。
「いやらしい加藤さん。……でも、家族に、特に子供さんに恥ずかしいとは思わないですか?それに世間にも」
「だって、死んでしまえばそんなこと思わんでしょう、本人はそこでジ・エンドですからね。後のことはどうでもいいですよ」
「へえー、そうなんですかぁー……、男の人ってそういう風に考えるんですかぁー」
「他人は知りません、僕は、ですよ……」※56へ

(写真は、車に乗っていてあまりに、前がきれいだったので撮ったもの。花はキンセンカ)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 18:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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