
舞台では、入れ替わり立ち替わり、出し物が披露された。
宴もたけなわになると、席を離れて酒を注いで回る人や、あちこち固まって話し込む人など、たちまち会場はまとまりがなくなり騒然としてきた。
もはや舞台に注目している人などいないのに、電気技師とボイラー技師の2人が、まるで練習でもするかのように、カラオケのマイクを取り合ってひっきりなしに歌っている。
晴美の周りもだんだん人が居なくなっていった。矢部はとっくりを持ってあちこち回っているようだ。斜め前の席で、かろうじてもくもくと食べている40代の看護師に、晴美は話しかけたりするが、すぐ話題は尽きる。
こうなると席を移動するしかないのか。
晴美はそれとなく会場を見回した。
啓介や秋津は、それぞれ楽しそうに飲んだり話したりしている。
何処へ行けばいいのか、晴美は何処へも行けず、居たたまれない気持ちで冷めた肉をつついていた。
そこへ、おもむろに矢部が戻ってきた。
「なんだ、川口さん1人で飲んでるの?ダメじゃない、注いで回らなきゃ」
「えっ、そうなの」
「うそ、うそ、さあ、これから2人でじっくり飲もう」
矢部はどっかと胡座をかいて座った。
「昨年の忘年会ではね、東元さんが蒲田さんとギター片手に井上揚水を歌ったんだよ、彼らハーモニーをつけて歌えるから、とてもいいんだあー」
「今年はやらなかったのねぇ、……東元さん、貴方と歌えばいいのに」
「俺、歌苦手だから……」
晴美は矢部が戻ってきたことにより、再び、場を保てたことにホッとし、慣れない手つきであったが、矢部に何回も酒を注いだ。
そんな時、「やあ、ご両人やってる?」と、後から不意に肩をたたかれ、晴美はハッとして後を振り返った。※60へ
(写真は、唐津城から撮った虹の松原。山と人家の間の緑が松林である)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)