2006年05月29日

栗の花


栗の花.jpg※60
 そこには、啓介がほんのり赤い顔をして立っていた。
 両手を広げて晴美と矢部の肩に手を置き、2人の真ん中に座った。
「あっ、先輩すいません、さっき注ぎに行ったんですが、回りにたくさん人がいたもんで、どうも…」と言いながら矢部が盃を差し出すと、啓介も「どうもどうも」と言いながら、2人はお互いに酒を酌み交わした。
 晴美は啓介が後輩の矢部に酒を注ぎにきたことは分かっていた。それでも側に来てくれたことに、じんわり嬉しさがこみあげてくるのを感じた。
 何とか自分にもかまってもらいたい。そう思った晴美は
「東元さん、井上揚水歌わないんですか?歌ってくださいよ」と、とっさに話かけていた。
「えっ、ああー揚水ねぇ、そういえば去年は蒲田さんと歌ったなあ。彼、揚水の歌が好きだったもんなあ」
「私、東元さんの歌、聞きたいです」
「いつでも歌ってやるよ、でも今夜はダメ、もう誰も聞いてやしないし。……それにもうそろそろお開きじゃないかなあ?」
「そうだ、先輩、これからカラオケ行きましょうよ、ねぇ川口さんも行くだろう?」と矢部が時計を見ながら言った。
「俺ダメ、院長につかまっちゃったんだ。久しぶりにマージャンしたいんだって。先生たちもやるっていうから、2テーブルは出来るんじゃないかなあ」
「……という訳、残念だったねぇー、川口さん。でも俺らだけでも行こうぜ」
 矢部は、また晴美の心を見透かしたように言う。
 晴美は、啓介の言葉に実際がっかりしていたので、矢部の言うことはいちいち腹立たしい。
 その時、幹事がお開きのコールをし、事務局長が一本締めの音頭をとった。※61へ

(写真は、栗林の中の1本の木の花。むせるような強烈な匂いが鼻につく。花じたいもグロテスクで綺麗だとは思えない)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 16:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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