2006年06月01日

唐津城と藤の花


唐津城と藤の花.jpg※61
       ※
 啓介は、院長から ―マージャンのメンバー集まるかなあ― と、持ちかけられた時、胸にひっかかるものがあった。
 決してマージャンをやりたくないというのではなかった。
 ふっと晴美の顔がよぎったのである。
 心のどこかで、晴美とプライベートの話が出来るのはこんな時ぐらいしかないと思って期待していたのかもしれない。田鶴子の束縛から離されてのびのび出来る時間は滅多にないからだ。
 啓介は、もちろん、院長の申し出を断ろうとは全く思わなかった。
 これでよかった、とむしろほっとした所もあったのだ。
 宴会場を出た啓介は、トイレを済ませ、遊戯室に向かおうとエレベーターの前に立っていた。
 すると、人の姿はなかったはずなのに、突然横にスーと晴美が寄ってきた。
「おや!川口さん、どうしたの?皆とカラオケ行かないの?」
「ええ、…行きます。…でも東元さんにちょっと用があって待ってたの、……あのおー、後で携帯に電話していいですか?マージャンが終ってからいいですから会いたいんです。会ってください」
 思い詰めた、張り詰めた声だった。
 晴美の胸の鼓動が聞えそうだった。
 
 啓介は、晴美の気持ちが痛いほどよく分かっていたが、一方では、彼女の思い切った行動にちょっと驚いたのだ。 度肝を抜かれた感じだった。もちろん、勇気を振り絞って起こした行動だろう。
 啓介にとっては、やはり嬉しいことだった。
 
 「えっ、でもたぶん今晩徹夜になると思うよ」と、何気に応えた。
「そうですか。……でも、電話で話すだけでもいいです。かけてもいいですか?」
「……そうだなあ」
 啓介は今にも泣き出しそうな晴美の顔を見ると、むげに断ることが出来なかった。大きく2回頷いてニッコリ笑った。
 晴美は恥かしそうに、でも嬉しそうにニッコリ笑い返すと、きびすを返して階段の方へ立ち去っていった。※62へ

(写真は、この5月に撮ったもの)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 00:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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