2006年06月03日

花菖蒲


花菖蒲.jpg※62
       ※
 何処をどう歩いてロビーまで来たのか、晴美は茫然と立ちすくんだ。
 エレベーターに乗るだろう啓介を、廊下の陰で待ちぶせしていた時の、張り裂けるような胸のドキドキが今だに残っている。
 その上、―会って下さい―と、自分から啓介に申し出た大胆な行動に、晴美は、恥かしさで頭が真っ白になっていた。
 自分にこんな情熱があったことに晴美自身が驚いたのだから、啓介が驚いたのは当然である。
 その驚いた顔が、今、晴美の目の奥に残像となって映し出されている。

「川口さん待ちだったんだよ、何してたんだよ。化粧でもしてたのか?おまえ、そんなことしてもちっとも変わらないんだからな」
 10人くらいの若い看護師を引き連れて、ロビーのソファーに、深々と座ってタバコを吹かしていた矢部は、ニヤニヤしながら立ち上がった。
 晴美の頭の中は、上の空状態だったが、不思議にちゃんと、
「すみません、お待たせして」と、頭を下げていた。

 スナックでは、飲んだり歌ったりダンスしたり、多いに盛り上がった。
 矢部も看護師も上機嫌だった。
 しかし、晴美は心ここに在らずの状態でボンヤリしていた。
 エレベーターの前で交わした啓介との会話を、ただひたすら、頭の中で復誦していたのである。
 この後、啓介は会ってくれるのか?
 晴美は、そのことばかり、悶々と考えていた。※63へ

(写真は、城跡公園にみごとに咲いている花菖蒲。種類が171種あるということ)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 14:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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