2006年06月13日

ピーマン


ピーマン.jpg※67
       ※
 忘年会旅行の夜以来、晴美の自分に対する態度が特に変わったという様子はなかったが、啓介自身は少し後ろめたい心を引きずっていた。
 それを払拭するために、矢部も誘い晴美と3人で、1度食事にでも行こうと考えていた。が、晴美と会うなら2人きりで、矢部になど邪魔されたくないという考えが、啓介にはなぜか根強くあったのである。躊躇している間に、3月を迎えてしまっていた。
 そんな時、晴美の転勤を知らされた。寝耳に水のことだった。
 啓介は少なからず動揺した。
 実母と晴美が重なり合い、啓介に背を向けて遠ざかっていった。実母との縁も薄かったように、実母によく似た晴美という女との縁もまた薄かったのだ。
 手を差し伸べれば、いつでもすぐ届きそうだった。
 そのことに安心して、毎日遠くから眺めているだけだった。
 啓介はそれだけで十分癒されていたのだ。
 こんなにあっけなく、晴美との別れがきてしまうとは。
 啓介は運命だと思わざるをえなかった。

 転勤が決った時、晴美は、レントゲン室にも挨拶にきた。
 その時、啓介は事務的に、「今後も頑張るように」と、言った。
 矢部は、何のくったくもなく「おまえ、もう少しおしゃれしろよ、今のままじゃ永久に彼氏も出来ねえぞ」と、晴美をからかっていた。
 啓介は、事務的な言葉以外何も言ってやれなかった。
 どんな女の子にも、気後れなどしたことがない啓介だったが、その日の晴美の前では寡黙だったのである。※68へ

(写真は、プランターで育てているピーマン。今花が終った状態)
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 12:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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