2006年06月15日

小説〔茜雲〕

※68
 3月31日病院勤務最後の日、晴美は通常通りの業務をこなした。
 終業時間になった。
 事務局長をはじめ事務局職員が、中村と晴美を見送るべく玄関に集まっていた。秋津が晴美に花束を渡しながら、目を潤ませていた。
 晴美は、皆の拍手の中で玄関を出た。中村も花束を手に一応玄関を出たが、まだ仕事が残っているのか、Uターンして事務所に戻った。
 晴美は、花束を胸に、そのまま病院の坂道を下りてバス停へと向かった。最初の頃、この坂道が嫌でたまらなかった。この坂道がそんなに嫌でなくなったのは、やはり啓介の存在があったからだろう。その啓介とのあっけない別れだけが、晴美の胸の奥で、後ろ髪を引かれるように、チクチク痛んでいた。

 晴美はバス停に立っていた。
―今、あの坂道を啓介のバイクが下りてきてくれたらなあ―
 しかし、そんな時に限ってバスはすぐ来た。
 ―やっぱり、そんなはずないか―そう思い、バスに乗ろうとした瞬間、車の大きな警笛音が晴美の耳に突き刺さった。
―えっ!まさか東元さん?―晴美はバスのタラップから足を踏み外しそうになった。ヒャッとしながら、警笛音の方を振り返ると、まさかの啓介が、バスの真後ろに付けたブルースカイラインの窓から身を乗り出して、晴美に手招きしていた。※69へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)

posted by hidamari at 22:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔茜雲〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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