※69
晴美と啓介は、昨年夏海水浴に来た海辺の岩に腰掛けていた。
「東元さんがもうちょっと遅かったら私バスに乗っていましたよ。でもラッキー!呼び止めて下さって」
晴美は、妙にハイテンションになっていた。
思い描いていた夢のようなことが、現実になった喜びが晴美の心を浮き立たせていたのだ。
「うん、申訳ない。帰りがけに市原先生から用を言い付かったものだから遅くなったんだ。……もう居ないかなあってヒヤヒヤしたよ、よかった間に合って」
啓介は穏やかな笑みを浮かべながら言った。
「今日は、餞別記念に、君にあげたい物があったから。それで、ぜひ君に会いたかったんだ」と言いながら、啓介はポケットから小さな桐箱を取り出した。
「これ、君に似合うかな、って思ったものだから、……お袋のものだったんだ」
「えっ、…お母様の?」
「真珠のブローチ、小さいけどかわいいんだ。君にならきっと似合うよ」
男性からプレゼントを貰う経験がなかった晴美にとって、こんなことは、想像だに出来ないことだった。しかも憧れの啓介から、ましてや母親の形見のアクセサリーを貰うとは。いったい、どういう意味があるのだろうか?
晴美は、餌を前にした犬がお預けをくったように、目を丸くしたまま、頭の中はいろいろなことを思い巡らしていた。※70へ
(上記小説は、カテゴリー短編小説[茜雲]で連載中)
2006年06月17日
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