2006年07月14日

五百羅漢


五百羅漢.jpg7
 茂と遙が、彼氏彼女として付き合うのに、さして時間はかからなかった。
 若い男女が、同じ目的を持って出会った場合、相手がどうしても好きになれない容姿でない限り、だいたい最初のつかみはうまくいくだろう。
 ましてや、ダンスという媒体があるのだ。
 茂はワルツ、タンゴ、ルンバ、サンバ、チャチャチャ等、一通りのステップをこなした。
 インストラクターから、2〜3時間マンツーマンで指導を受けた遙は、瞬く間にある程度のステップを踏めるようになった。
 それからというものは、茂とペアを組むことにより、さながら手取り足取り教わることが出来、めきめき上達していったのである。
 
 ダンス教室で遙に初めて出会った時、茂は、まあこの子なら彼女にしてもいいか、と及第点を出していた。しかし、初回は挨拶をしただけで終った。2回目は自己紹介だけで止めておいた。3回目で初めてペアを組んだ。遙は身長もあり、スタイルもいい。ダンスの勘もなかなかだった。
 遙自身も、ダンスが上達する毎に、身体全体を上気させ、心から楽しんでいる風だった。
 3回目のその日、茂はおもむろに「終ったら、コーヒー飲みに行かないか?」と遙を誘った。「…今日は用事があるから」と以外にもあっさり言う。
 何、俺を断るの!と内心穏やかでない茂だったが、「そう、じゃあまた今度…」と何食わぬ顔で引き下がった。

 ダンス教室を出た茂は、胸のポケットからタバコを出すと、空に向かって大きく一服ふかした。こういうこともあるさ、と思ったのもつかの間、何と、そこへ、遙が息を弾ませながら追いかけてきたのだ。
「あのー、ちょっとだけならお付き合い出来るので…」と言う。
 ―何をかっこつけているんだ。別に用事なんてないんだろう?― と茂はすぐ察しがついた。―しかし、まあ教師なんて、そんなものだろう― 茂は、目を丸くして、遙をマジマジと見つめた。
「いいの?じゃあちょっとだけ行こうか」と、ズボンのポケットに左手をつっこみ、右手でタバコを吸いながら、早足で喫茶店のある飲み屋街へと歩いていった。
 遙は照れくさそうに、真っ赤にした顔をうつむき加減に、茂の後をついていった。8へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)
(写真は、川越、喜多院の境内にある石像。全部で538体あり、夫々が人間味あふれる表情をしている)

posted by hidamari at 19:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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