2006年07月17日

透明な椅子


透明な椅子.jpg8
 喫茶店マロニエは飲み屋街の入口にある。
 茂がこの六島に赴任してきてすぐにしたことは、自分の好みに合った喫茶店を探すことだった。
 仕事柄、公用車を自分で運転して現場へ出向くことが多い。込み入った仕事が終ったりすると、どうしても、一服したいのだ。そのためには、行きつけの喫茶店が必要だった。
 コーヒーが美味しくて、駐車場がなければならない。マロニエは概ね茂の望みにかなっていた。
 ウエートレスが無愛想な所も気に入っている。妙に馴れ馴れしくされるのは、苦手なのだ。かえって居心地を悪くする。喫茶店は、気持ちをリセットさせ、さらに気持ちをリフレッシュさせる所だと、茂はかたくなに信じていた。 そのためには、ほのかな明かりでよい。何より静かで落ち着けることが第一なのだ。
 そこに、女性を同伴することは、既に彼女と決めた時に限った。
 
 後をついて来ていた遙が、わたし車で来ているんだけど、と茂の背中に向かって呼びかけた。
 「ああそう、じゃあ君の車に乗せてもらおうかな」茂は振り返ってそう言った。
「わたし車取ってきますからここで待ってて」と言うと、遙は、顔を上げていつもの快活さを取り戻していた。そして、勢いよくダンス教室の駐車場へ引き返した。
 間もなく、赤い軽自動車に乗って、茂の元へ帰ってきた。
「運転、俺替わるよ。その方が行く先を口で説明するより早いから」と、遙を助手席へ移らせ、茂がハンドルを握った。
 この日から、遙のこの赤い軽自動車ホンダライフが、2人のデートの足になったのである。9へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)
(写真は、埼玉新都心のホテル内レストラン入口にあった涼しげな椅子)

posted by hidamari at 00:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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