2006年07月19日

ガラスのオブジェ


ガラスのオブジェ.jpg9
 用事があるといいながら、結局その日、遙はマロニエでコーヒーを飲み、ある程度時間が過ぎても帰るとは言わなかった。
 「俺たちこれから付き合おう、落ち合う場所をここに決めるよ、いい?」と、茂はおもむろに遙に確かめた。遙は「うん」と大きく頷いただけだったが、はにかんだ笑みは喜びに溢れていた。
 茂には分かっていた。遙はもう十分自分に好意を持っている。遅かれ早かれ男女の関係になることを、茂自身も望んでいることだった。とはいえ、こんなにスムーズに行くと、かえって引いてしまうところもあったのだ。
 しかし、この女性と付き合うと決めた以上、最初に自分の意思を伝えるのが、女性と付き合う時の、茂の流儀だった。そして女性と落ち合う喫茶店を決めるのも茂の流儀だった。

「そろそろ帰ろうか」と茂は遙を促した。「ええ、…でもお腹すかない?」と、さも帰りたくなさそうにする。
 そんな彼女を邪険に帰すことも出来ない。
 デートの1日目から夜遅くまで女性を連れ回すのは本意ではなかった。先立つお金もない。茂の月給では、1月もたせるのがやっとで、度々飲み屋等に行き、散財することは許されないのだ。
 茂は、付けが利く飲み屋に行くしかなかった。
 そこで茂は中瓶のビールを1本飲んだ。もともとお酒はあまり強くない。コップ1杯で真っ赤になった。遙は車の運転をするため、もっぱら食べるだけで、お酒は1口も飲まなかった。にもかかわらず、小料理屋を出ると、まるで酔っているように、馴れ馴れしく茂に寄り添ってきた。茂は流れに従い自然に遙のしなだれた肩を抱いた。10へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)
(写真は、さいたま新都心のホテルロビーに飾ってあったもの)

posted by hidamari at 21:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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