2006年07月27日

喜多院に飾られている大きな壷


喜多院に飾られていた壷.jpg13
 ゲートをくぐるとそこには、別荘地にあるようなしょうしゃなコテージが外灯と共に奥の方へと連なって並んでいた。別荘地と違ったのは、その建物が整然としかもナンバー通りに並んでいることだ。
 1戸ごとに車庫がありポーチがあった。ポーチには植木鉢なども飾られている。隣のコテージとの間には高い塀があり、完全にプライバシーは守られていた。
 「ここ、普通のお家とちっとも変わらないね」と遙は喜々として言う。まるで我が家へ帰った時のように、先になり玄関の鍵を開けた。
 茂は男として戸惑っていた。普通、こんな所へ来るからには2人の気持ちは高揚しているはずだ。玄関を入るなり抱きしめてキスをするのが、セオリーかもしれない。女性に対するエチケットだろう。
 しかし、遙はまるでモデルハウスを見学するかのようにはしゃいでいる。これは、物件を案内する不動産屋と客のようだ、と茂は思った。これなら誰だってそんな気にならない。茂は、やれやれ、好きなようにすればいい、と成り行きに任せるしかなかった。それに、何もしないという約束も忘れてはいない。

 中の作りも普通の家となんら変わらなかった。玄関には下駄箱があり、活花が飾ってある。さらに廊下があり居間、キッチン、バス、トイレがある。居間にはテーブル、ソファーがあり、洋服収納庫、もちろん大きな液晶テレビがある。そのテレビにはカラオケの機能がついており、マイクと歌詞の本が添えてある。
 ただ、サイドテーブルの上に、表紙に《お2人の記念すべき日に心に残ることを書き残しては如何ですか?》と書かれた綺麗なノートが鉛筆と共にそっと置かれているのは、やはりラブホテルならではのことだ。
 キッチンには、飲み物が入った冷蔵庫、電子レンジ、インスタント食品、レトルト食品が並べられた食器棚が備え付けられている。コーヒー豆がセットしてあるコーヒーメーカーが、これはサービスですよ、とこれ見よがしに置いてあるのが、いかにもビジネスライクだった。
 バスルームはさすがに広い。それに、ムーディーな照明にスイッチ1つで切り替えられる。真っ白いバスローブが2枚掛けてあり、洗面用具もきっちり揃っている。
 バスルームと他の部屋とのしきりが、ガラス張りで、外からバッチリ見えるようになっているのは、そうかこれがラブホテルなのだ、と思わせることだった。
 中に入るまでは気が付かなかったが、このコテージは2階建てになっていた。
 階段を上るとデーンと広い寝室が飛び込んでくる。キングサイズの、フワフワの楕円形ベッドは、電動式になっている。寝室の色彩は全部白と黒のモノトーンで統一されて、落ち着いているように見えるが、気がつくと周りの壁と、何と天井までもが鏡だった。14へ

(上記小説は、カテゴリー短編小説〔喫茶店〕で連載中)
(写真は、喜多院に飾られていた壷。喜多院は家光が江戸城を移築したとされる建物)



posted by hidamari at 11:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説〔喫茶店〕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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